2016年02月24日
掣肘
掣肘は,
せいちゅう
と訓むが,辞書には,
「《『呂氏春秋』審応覧・具備にある、宓子賤が二吏に字を書かせ、その肘を掣(ひ)いて妨げたという故事から》わきから干渉して人の自由な行動を妨げること。」
という意味になる。この『呂氏春秋』とは,漫画『キングダム』の,嬴政(えいせい),後の始皇帝の政敵,相国・呂不韋が食客を集めて共同編纂させた書物,である。
『呂氏春秋』「審応覧・具備」については,
http://www.kokin.rr-livelife.net/classic/classic_oriental/classic_oriental_156.html
に詳しいが,原文の当該箇所は,
「宓子賤(ふくしせん)、亶父(たんぽ)を治むるに、魯君の讒人(ざんじん)を聴きて、而して己をして其の術を行うを得ざらしむるを恐る。 将に辞して行くに、近吏二人を魯君に請ひて、之と倶ともに亶父に至る。
邑吏(ゆうり)の皆な朝するに、宓子賤、吏二人をして書せしむ。 吏の方(まさ)に将(まさ)に書せんとするに、宓子賤、旁(かたはら)従(よ)り時に其の肘を掣搖(せいよう)す。」
である。哀公への宓子賤の諫言,という落ちである。子賤は,孔子の弟子である。
「掣」の字は,
「制の左側は,『木+/印』の会意文字で,木材の必要な部分を斜めに断ち切るさまを示す。制はそれに刂(刀)を加えた字で,刀で必要なだけ切り取り,他を切り捨てること。掣は,『手+音符制』で,相手の行動を途中で切ってとめること」
である。おさえる,とか,相手の行動をおさえて勝手に行動させない,といった意味になる。「制」にも,勝手な振る舞いを抑える意味があり, 「制肘」とも書く。
「肘」の字は,
「『肉+寸(手)』。もと丑が腕を曲げたさまを示す字であったが,十二支の名に転用されたため,『肉+丑』の字がつくられた。それと肘とはまったく同じ」
とある。因みに,漢字では,一口に「ひじ」といっても,
肘(腕の関節,臂は中部の湾曲せるところ,肘はその外側)
肱(臂の第二節,肘より腕に至るまで)
臂(肘より腕に至る間,手の上部)
臑(かいな,肩より肘に至る間。)
と書き分けている。和語「ひじ」は,「ひざ」に対して,
「ヒジ(曲げる)」
で,腕の関節の曲がる部分を指す。『古語辞典』には,朝鮮語と同源,とある。『大言海』は,
「引縮(ひきちぢ)みの意にもあるか」
として,動作からの言語化を取る。
「ひざ」は,
「ヒジ(曲げる)」の転,
「ヒ(引く)+ザ(いざる)」で,肢をひきいざる部分,
の二説ある。『大言海』は,ここでも,
「ひき,ゐざるの意。坐儀に進退するより云ふか」
と,動作から来ているとみる。どうもその方が,理にかなう気がする。
さて,掣肘であるが,多くは,
掣肘を加える,
といった使い方をする。
牽制する,
という意味だが,語源から考えると,
横槍を入れる,
水を差す,
容喙する,
介入する,
ちょっかいを出す,
というのもあるが,直截的には,
邪魔をする,
というのが近い。因みに,横槍を入れるというのは,
横を入れる,
とも言い,
攻撃の最中に,別の軍が敵の側面から攻撃すること,
を言い,室町時代以降,突撃の主力は槍なので,「横槍を入れる」というようになった,とある。それが,矢による場合,
横矢,
というらしい。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
笹間良彦『図説日本戦陣作法事典』(柏書房)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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