2016年03月15日


素は,


とも
モト
とも
シロ
とも,

訓む。仕舞が素舞であることから,素については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/401709935.html

で,素とは,「しろ」であり「もと」であり,「はじめ」である。意味としては,

撚糸にする前のもとの繊維,蚕から引き出した絹の原糸

とか,

模様や染色を加えない生地のままの,白い布

等々,下地とか地のままとか生地とか元素といった意味合いが強い,と触れたことがある。

「素」の字(呉音は「ス」漢音「ソ」)は,

「『垂(スイ)の略字体+糸』で,ひとすじずつ離れて垂れた原糸」

とある。で意味は,

撚糸にする前のもとの線維。繭から引き出した絹の原糸,

という意味から端を発している(「要素」「元素」)。だから,

手を加える前のもととなるもの,

という意味に広がり,そのメタファから,

生地のまま,

となり(「素質」「素朴」),さらに,染色する前の,

しろい,

と広がる。で,『論語』の,

子夏問曰。巧笑倩兮。美目盼兮。素以為絢兮。何謂也。子曰。繪事後素。曰。禮後乎。子曰。起予者商也。始可輿言詩已矣

にある,

素以為絢兮(素以て絢(あや)となす),

について,子夏が,

繪事後素,

と答えたのについて,古注では,

絵の事は素(しろ)きを後にす

と,絵とは文(あや),つまり模様を刺繍することで,すべて五彩の色糸をぬいとりした最後にその色の境に白糸で縁取ると,五彩の模様がはっきりと浮き出す,

と解すると,貝塚茂樹注にはある。しかし新注では,

絵の事は素(しろ)より後にす,

と読み,絵は白い素地の上に様々の絵の具で彩色する,そのように人間生活も生来の美質の上に礼等の教養を加えることによって完成する,と解する。これをとって,大塩中斎は,諱を後素と言った,ということは,すでに触れた。

話を元へ戻すと,白い,という意味から,

下地,

となり,

ただで,
とか,
地のままで,
とか
生野菜,

と,外を広げる。

日本語だと, 「す(素)」「そ(素)」と訓み方で使い分けている。「す」と訓むと,

ありのまま,

という系統で(「素顔」「素うどん」「素手」),日本特有の使い方は,

「日本の音楽・舞踊・演劇などの演出用語。芝居用の音楽を芝居から離して演奏会風に演奏したり、長唄を囃子(はやし)を入れないで三味線だけの伴奏で演奏したり、舞踊を特別の扮装(ふんそう)をしないで演じたりすること」

と意味を拡大したり,「素」をつけて,

「素寒貧」「素町人」と,軽蔑の意味を込める,
とか,
素早い,すばしっこい,

と,程度のはなはだしいのに使うし,まじりっけなしという意味で,

「 素顔」「 素肌」「 素うどん」「 素泊り」

と使う。しかし,これは,我が国だけでの使い方らしい。

一方,「そ(素)」と訓ませて,

白い,生地のまま,

という系統で,飾りっ気のない(「素服」「素地」「素因」「素質」「簡素」「素行」「平素」「素描」「素朴」しかし「素性」は「す」と訓む)という意味の範囲になる。

漢字の「素」は,「もと」という意味では,本・元・原等々とは,区別されて使われる。

本は,末に対していい,後先をただしていう,
原は,水源の義より,根本を尋ねていう,
旧は,新の反,
故は,今に対して,以前はこうであった,という
素は,白き帛のこと,下地からの意,
基は,土台の意,

と区別する。その意味で,「素」は,「もと」は「もと」だが,上塗りを剥がした,生地,地肌,という意味になる。日本の音楽や舞踊で用いる場合,

「飾り気がなく,それ自身ということで,音楽の面では〈素唄(すうた)〉〈素謡(すうたい)〉〈素浄瑠璃〉〈素語り〉〈素で演奏する〉などと用いられる。長唄に関していえば,芝居から離れた純演奏会様式のものを〈素唄〉といい,また囃子なしで,三味線の伴奏だけで奏することを〈素〉ともいう。能では伴奏なしにうたうことを〈素謡〉と称するし,浄瑠璃では,人形芝居や歌舞伎から離れ,演奏会様式で純粋に音楽を味わうものを〈素浄瑠璃〉,三味線の伴奏なしに浄瑠璃を語ることを〈素語り〉などと呼ぶ。」

仕舞は,

素(装束をつけない)+舞

なのだという。つまり,

仮面や衣装なしの舞い,

ということになる。その意味から考えると,「素」でいうもとは,その人の,

素地,

ということになる。それは,何もない意味ではない。その人が生き方として身に着けてきた,

その人自身,

という意味になる。素顔,とは,そういう意味でなくてはならない。

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
貝塚茂樹訳注『論語』(中公文庫)

ホームページ;
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