2016年03月16日

志怪


志怪とは,辞書(『広辞苑』)には,

中国の旧小説の一類,不思議な出来事を短い文に綴ったもの。また創作の意図はなく,小説の原初的段階を示す。六朝東晋の頃より起こった。「捜神記」など,

とある。ここで言う,「小説」は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/432692200.html

で触れたように,

「市中の出来事や話題を記録したもの。稗史(はいし)」

であり,『日本大百科全書(ニッポニカ)』には,

「中国、六朝(りくちょう)時代にもっとも盛んに記録された説話の名称。「怪を志(誌)(しる)したもの」という意味の命名で、この種の話には怪奇な内容をもつものが多いところから、近代中国の文学史家によって名づけられたものである。志怪小説ともよばれ、特異な人物の事跡を記録した志人小説という説話群と相対する説話群の呼称でもある。六朝も早期の三国・晋(しん)のころの志怪には、昔話や伝説など、民間伝承の記録とみられるものが多いが、劉宋(りゅうそう)以降、六朝期後半の志怪書には、仏教や道教の功徳(くどく)を説く宗教説話がしだいに数を増してくる。しかし今日原形をとどめる志怪書は1本もなく、いずれも後人が『太平広記(たいへいこうき)』や『太平御覧(たいへいぎょらん)』などの類書に引かれ残っていた六朝志怪書の断片を拾い集めて作り直したようなものばかりである。また原話の筆録に忠実でなく、話の骨子だけを記したようなものも多い。」

と詳しい。

「昔、中国で稗官(はいかん)が民間から集めて記録した小説風の歴史書。また、正史に対して、民間の歴史書。転じて、作り物語。転じて,広く,小説。」

その意味で,いま言う小説のはしり,ということになる。

「志怪小説、志人小説は、面白い話ではあるが作者の主張は含まれないことが多い。志怪小説や伝奇小説は文語で書かれた文言小説であるが、宋から明の時代にかけてはこれらを元にした語り物も発展し、やがて俗語で書かれた『水滸伝』『金瓶梅』などの通俗小説へと続いていく。」

というわけだ。

そもそも「志怪」とは,

「怪を志(しる)す」

という意味らしい。「志」という字は,

「士印は,進み行く足のかたちが変形したもので,之(いく)と同じ。士女の士(おとこ)ではない。志は『心+音符之』で,心が目標を目指して進み行くこと」

とある。意味には,「しるす」「書き留めた記録」という意味もある。「怪」の字は,

「圣は,『又(て)+土』からなり,手でまるめた土のかたまりのこと。塊と同じ。怪は,それを音符とし,心を添えた字で,丸い頭をして突出したいような感じを与える物のこと」

とある。で,「あやしい」「見馴れない姿をしている」「不思議である」という意味になる。

志怪に関心を持ったのは,三遊亭圓朝の創作した怪談噺「牡丹灯籠」は、中国明代の小説集『剪灯新話』に収録された小説『牡丹燈記』に着想を得ている,というように,中国から着想というか,翻案というか,下手をすればそのまま剽窃したものが結構あるのではないか,ということからだ。

代表的な作品としては,

『列異伝』曹丕の作として伝えられるが、現存するものには後人の作品が混入しており、成立の経緯は不明。
『捜神記』晋の干宝作。
『捜神後記』晋の陶淵明作。「桃花源記」が含まれる。
『述異記』斉の祖冲之作。同題の任昉作の書は地理書的作品。
『異苑』宋の劉敬叔作。劉は江蘇省銅山の人で、東晋の劉毅、劉裕に仕えた。
『漢武故事』作者不詳。班固の作として伝えられて来たが、六朝の作品と見られる志人小説。
『聊斎志異』清の蒲松齢作。

等々と挙げられているが,たとえば,

『捜神記』の『むじな』や『ろくろ首』は,小泉八雲『怪談』の原典

となっていると言われるし,『剪燈新話』の『牡丹燈記』は,

三遊亭円朝の『怪談牡丹燈籠』

の元になっており,上田秋成は『剪燈新話』の構成を借りて,

『雨月物語』の『吉備津の釜』

を著している,という。すでに,江戸時代(寛文年間1660年代)には,

『伽婢子(おとぎぼうこ)』
『狗張子(いぬはりこ)』

が,志怪小説の翻案として,出されている。

こうしたものが受け入れられる,文化的・社会的背景として,

仏教や道教の思想の浸透に伴って、輪廻転生の物語

が受け入れられる土壌がある,ということなのだろうか。日本的な土壌については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/432575456.html

で触れたように,

中世風の高僧法力譚の定型におさまりきれなくなった江戸怪談の多様な表現,

が可能になった時代背景があるようである。その頂点に,

雨月物語.jpg

第四版の見返、序 見返「上田秋成大人編輯/雨月物語/全部/三冊/浪花書肆 文榮堂蔵版」


『雨月物語』

が来る,ということのようである。

日本・中国の古典から脱化した怪異小説9篇,

という表現が,正によく示している。

参考文献;
堤邦彦『江戸の怪異譚―地下水脈の系譜』(ぺりかん社)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%97%E6%80%AA%E5%B0%8F%E8%AA%AC
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A8%E6%9C%88%E7%89%A9%E8%AA%9E


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