2016年03月22日
浮気
浮気は,
ふき,
と訓むと,
空気よりも軽い気体のこと,
らしいし,
ふけ,
と訓むと,滋賀県守山市の浮気町のことだし,
ふけ(うき)
と訓む名字もあるらしいが,ここでは,いわゆる,
うわき,
のことだ。その場合,
浮気,
以外に,
上気,
とも当てる。
なぜこの「浮気」を取り上げるかというと,三田村鳶魚が,『江戸ッ子』のなかで,旗本奴,町奴について言及する中で,
「『六方浮気』と続けて言っておりますが,『浮気』と申しても,この自分のは後に言う『浮気』とは違って,空元気というような意味にも取れます。」
と書いていた。「六方」というのは,奴風(やっこふう)のことを指し,
(奴というのは)「武家の奉公人で,身分の軽いものですが,これらりすることを軽快であるとし,おもしろいとして,それを学んだものが旗本奴」
で,原義はそういう意味なのか,と思ったのだが,『語源辞典』を見ても,
「原義は,『ウワ(浮)+気』です。心が浮いている意です。他の異性に心が映りやすいことを言います。転じて,一般に,興味が移りやすい意を表します。」
としかない。辞書(『広辞苑』)にも,
心が浮ついていること,心が落ち着かず変り易いこと,
陽気ではでな気質,
男女間の愛情が,うわついて変り易いこと,他の異性に心を移すこと,
としかない。ただ,「心が浮ついている」例として,『五輪書』の,
「敵に浮気にして事を急ぐ心の見ゆる時は」
は,「浮気」の,
「心がうわついていること。心が落ち着いておらず、変わりやすいこと。」(広辞苑)」
「心が浮ついて、思慮に欠けること。」(大辞泉)
「一つのことに集中できず心が変わりやすいこと。」(大辞泉)。
という意味の例に出してあるのだが,原文を見ると,「火之巻」で,
「うつらかすといふ事」
の項に,多人数を相手にした際のことが,こう書いてある。
「移らかすといふは,物事にるもの也。或いはねむりなどもうつり,或いはあくびなどのうつるもの也。時のうつるもあり。大分の兵法にして,敵うはきに(浮気)にして,ことをいそぐ心のみゆる時は,少しもそれにかまはざるやうにして,いかにもゆるりとなりてみすれば,敵も我事(わがこと)に受けて,気ざしたるむ物なり。其うつりたるとおもふ時,我方より空(くう)の心にして,はやくつよくしかけて,かつ利を得るもの也。」
この文意からすると,「浮気」が,心が浮ついている意なら,わざわざゆったりして,それにつられて相手の気迫がたるむなどという手を使う必要はない。つまり,「眠りが移る」ように,ゆったり気分を相手に移らせて,気をゆるませる必要はない。ここでの「浮気」は,
心が浮ついている,
とは,少し違うのではあるまいか。『大言海』を見ると,
浮きて落ち着かぬ心,
とあり,さらに,
軽佻,
客気,
とある。客気は,
かっき,
ないし
きゃっき,
と訓んで,
ものにはやる心,血気,空元気,
という意味になる。ここでは,三田村鳶魚の言っていた意味の,
浮気,
が使われているのではないか。
相手が血気にはやっているときは,こちらがゆったりすると,相手も気が緩む,
という意味なら,通じる。血気にはやるとは,
真の勇気ではない,
と,『字源』にある。「うわき」に当てる「上気」を,
じょうき,
と訓めば,
血が頭に上って興奮し,取り乱すこと,
のぼせること,
という意味になる。まさに,血気にはやるに近い。
参考文献;
三田村鳶魚『江戸ッ子』(Kindle版)
簡野道明『字源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
宮本武蔵『五輪書』(Kindle版)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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