2016年03月24日
茶番
茶番について,三田村鳶魚は,
「宝暦以来,芝居の方から出たことで,役者の身振りや芝居の真似をする」
ということを意味する,という。辞書(『広辞苑』)によると,
客のために茶を点てて出す役,
茶番狂言または口上茶番の略。
馬鹿らしい,底の見えすいた振る舞い,茶番劇,
と意味が載る。因みに,茶番狂言は,
立茶番,
に同じとあり,立茶番は,
かつらや衣装をつけて芝居をもじった所作をする演芸の一種。茶番狂言,
とある。茶番師は,
茶番狂言を演じるのを業とする者,
人をだます名人,
とある。別の辞書を見ると,
「こっけいな即興寸劇。江戸歌舞伎の楽屋内で発生し、18世紀中ごろ一般に広まった。口上茶番と立ち茶番とがある」
というのが載る。あるいは,『大辞林』には,
「〔江戸時代,芝居の楽屋で茶番の下回りなどが始めたからという〕 手近な物などを用いて行う滑稽な寸劇や話芸。 → 立茶番 ・ 口上(こうじよう)茶番 ・ 俄(にわか)」
と載る。「口上茶番」は,
身振りを入れず,座ったまま、せりふだけで演じる滑稽を演じるもの,
とあり,「立茶番」が,上記のように,かつらや衣装を着ける,
「かつら・衣装をつけ,化粧をして芝居をもじったこっけいなしぐさをする素人演芸」
となる。「俄」は,辞書(『広辞苑』)に,
「俄狂言の略。素人が座敷・街頭で行った即興の滑稽寸劇で,のちに寄席などで興業されたもの。もと京の島原で始まり,江戸吉原にも移された。明治以後,改良俄・新聞俄・大阪俄といわれたものから喜劇劇団が生まれた。地方では,博多俄が名高い。茶番狂言。仁輪加。」
とある。俄については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%84
に詳しいが,どうも,いまは,俄も茶番もひとくくりにされているが,そもそも発祥は違うのではないか。
端は,「素人」と言いつつ,いつの間にか「茶番師」という業がある,というのは,ストリートミュージシャンがメジャーデビューするような感じなのだろうか。
「茶番」に戻すと,
http://whatimi.blog135.fc2.com/blog-entry-392.html
には,
「江戸時代に歌舞伎などの芝居の楽屋で、茶番(下働き)が下手で馬鹿馬鹿しい短い劇や話を始めたことから、
茶番=下手な芝居、馬鹿げた芝居、という意味になったようです。『茶番劇』というのは、茶番がやるような下手な劇という意味です。現代では本当の芝居ではなく、結末が分かりきっているような馬鹿馬鹿しい話し合いなどを茶番劇と言います。」
とある。確かに,『古語辞典』には,
「近世後期,素人狂言の一種。歌舞伎芝居の楽屋の茶の番に当たった下級の役者が,座興を出す風習が,天明頃,民間にも広まったもので,手近な材料を使って仕方または手振りで,地口のような道化たことを演じたもの。京阪の俄と同類」
とある。「仕方」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/422720655.html
で触れた。「地口」とは,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E5%8F%A3
に詳しいが,辞書(『広辞苑』)には,
「俚諺・俗語などに同音または声音の似通った別の語をあてて,違った意味をあらわす洒落,語呂合わせ」
とあり,まあ,いまふうに言うと,ダジャレということになる。
舌切り雀→着た切り雀,
といった類である。『大言海』に,「茶番」について,山東京山『蜘蛛の絲巻』(弘化)から,
「天明元年の十二月,ある所なる勢家にて,年忘れとて茶番ということありしに,云々,茶番の題は,鬼に金棒,二階から目薬,猫の尻へ木槌など云ふ卑俗の諺なり」
を引く。お題が,諺から与えられて,何かを演ずる,ということらしい,という「茶番」の原風景がうかがえる挿話になっている。因みに,「茶番狂言」については,『大言海』は,
「江戸にて,芝居の役者共,顔見世の頃,楽屋にて,茶番,餅番,酒番などとて,其番にあたりし者より饗することあり,色々たはれ(戯)たる趣向を尽くす。此時茶番に当たりし役者の,工夫思ひつきに,景物を出してせしを,云いひなるべし。略して,ちゃばん,にはか(京都)」
と,「茶番」の出自が明らかになっている。そこに,大田覃「俗耳鼓吹」(天明)から,
「俄と茶番とは,似て非なるもの也」
というのを引用する。俄が遊郭の,楽しみなら,茶番は,いわば,内々の素人芸,あるいは,落語の前座の芸比べといった雰囲気で,俄が,「喜劇劇団」になっていくのに対して,茶番は,実体を失い,
茶番劇,
と,出来レースというか,見えすいた小芝居,と喩えられる中に,かろうじて生きている,という感じである。
因みに,『語源由来辞典』は,
http://gogen-allguide.com/ti/chabangeki.html
「『茶番』は『茶番狂言』の下略で、江戸末期に歌舞伎から流行した、下手な役者が手近な 物を用いて滑稽な寸劇や話芸を演じるもののこと。 本来、茶番はお茶の用意や給仕をする者のことであるが、楽屋でお茶を給仕していた大部屋の役者が、余興で茶菓子などをつかいオチにしたことから,この芝居を『茶番狂言』と呼ばれるようになった。此の寸劇では,オチに使ったものを,客に無料で配っていたため,見物客の中には,寸劇ではなく,くばられる品物を目当てに訪れる者もいたといわれる。」
と書く。これも,なにがしか,その当時の雰囲気を伝えている。
参考文献;
三田村鳶魚『江戸ッ子』(Kindle版)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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