「すっぱぬく」は,
素(っ)破抜く
とも,
透(っ)波抜く
とも,
表記する。辞書(『広辞苑』)には,
刀などをだしぬけに抜く,
突然人の隠し事などを暴く,
人の意表に出る,出し抜く,
という意味が載る。『デジタル大辞泉』には,
「すっぱ(忍びの者)が思いがけない所に立ち入ることからともいう。」
と付言する。『大言海』も,
「忍者の思ひかけぬ所に立ち入るに譬へ云ふか」
とするし,「忍者」についての,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%8D%E8%80%85
の記述にも,
「江戸時代までは統一名称は無く地方により呼び方が異なり、『乱破(らっぱ)』『素破(すっぱ、“スッパ抜き”という報道における俗語の語源)』『水破(すっぱ)』『出抜(すっぱ)』)『透破(すっぱ、とっぱ)』『突破(とっぱ)』『伺見(うかがみ)』『奪口(だっこう)』『竊盗(しのび)』『草(くさ)』『軒猿』『郷導(きょうどう)』『郷談(きょうだん)』『物見』『間士(かんし)』『聞者役(ききものやく)』『歩き巫女』『屈(かまり)』『早道の者』などがある。」
として,「スッパ抜き」を忍者が語源とする。
『日本語俗語辞典』
http://zokugo-dict.com/13su/suppanuku.htm
も,
「すっぱ抜くのスッパとは後に忍者と呼ばれるようになる戦国時代の武術集団のことである。こうしたスッパの行動・活動をすっぱ抜くと言ったが、現代では企業や政治などの組織、また芸能人など著名人の秘密・裏情報・スキャンダルをマスコミや個人が不意に明るみに出すことを言う。」
とする。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q148854914
でも,
「『すっぱ抜く』という言葉の由来は忍者。南北朝時代、楠木正成は忍者を使って敵の情報を集めていたと記録に有ります。この忍者は当時『透波』(すっぱ)と呼ばれていました。この透波の行動力は、あまりにも素早く意表をついたものだったことから『透波のように出し抜く』という言葉が生まれたのです。」
と,やはり忍者説を取る。
『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/su/suppanuku.html
も,同じで,
「すっぱ抜くの『スッパ』は、『素っ破』や『透っ波』と書き、戦国時代、武家に仕えたスパイ( 忍者)のことである。 忍者は密かに行動し情報を収集して明るみに出すことや、不意に 刃物を抜くことから、出し抜いて暴くことを『すっぱ抜く』と言うようになった。 現代では使われないが,すっぱ抜くには,『刀を不意に抜き放つ』という意味もある。」
とする。
『由来・語源辞典』
http://yain.jp/i/%E3%81%99%E3%81%A3%E3%81%B1%E6%8A%9C%E3%81%8F
では,
「『すっぱ』は『素っ破』と書き、戦国時代に武家に雇われた忍びの者のこと。『抜く』は刀を抜くこと。忍者は刃物をいきなり抜くことから、江戸時代にはいきなり刃物を抜く意で用いられていた。のちに、出し抜いて暴く意味へと転じ、新聞や雑誌などのメディアで多く用いられるようになった。」
と,江戸時代に,意味が変じたと書く。確か三田村鳶魚は,『江戸ッ子』のなかで,
「素刃抜きの喧嘩」
という言い回しで,
素破,
ではなく,
素刃,
を当てていた。手元の『語源辞典』では,
「すっぱり+抜く」
で,秘密がすっぽりと筒抜けでわかる意,とする,擬態語語源説と,
「すっぱ(透波)+抜く」
で,忍者が秘密を嗅ぎつけて,うまく手に入れる,という忍者語源説と,二つある。しかし,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%8D%E8%80%85
が,前述したように,「忍者」の呼び方については,
「江戸時代までは統一名称は無く地方により呼び方が異なり、『乱破(らっぱ)』『素破(すっぱ、“スッパ抜き”という報道における俗語の語源)』『水破(すっぱ)』『出抜(すっぱ)』)『透破(すっぱ、とっぱ)』『突破(とっぱ)』『伺見(うかがみ)』『奪口(だっこう)』『竊盗(しのび)』『草(くさ)』『軒猿』『郷導(きょうどう)』『郷談(きょうだん)』『物見』『間士(かんし)』『聞者役(ききものやく)』『歩き巫女』『屈(かまり)』『早道の者』などがある。」
と書いたように,地域ごとに呼び名は異なり,江戸時代まで統一したものがなく,
「戦前は『忍術使い』といった呼称が一般的だったが、戦後は村山知義、白土三平、司馬遼太郎らの作品を通して、『忍者』『忍びの者』『忍び』という呼称が一般化した。」
とあるところをみると,忍者=素破,透波,として
素破抜き,
を語源としたというには,少なくとも,「透波」「素波」で,「忍者」を指しているという共通認識がなければ,この言葉の含意は通じないのではないか。それよりは,三田村鳶魚が,
素刃,
を当てたように,
いきなり刃物を抜く,
意で用いていたという方が正確ではないだろうか。「すっぱ」に,「透波」「素波」の字を当てて,考え落ちのように,透波=忍者の行動が語源とこじつけた,というように思えてならない。
北斎漫画より
なお,忍者,草の作戦行動については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/416745079.html
で触れた。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%8D%E8%80%85
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
三田村鳶魚『江戸ッ子』(Kindle版)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm