2016年03月28日

調子


よく,役者の三拍子,といって,

一調子,
二ふり,
三男,

というらしい(「一声二顔三姿」あるいは、「一声二振三男」とも)。調子とは,

口跡,

である。口跡については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/404019588.html

で触れた。多少重なるかもしれないが,辞書(『広辞苑』)には,

言葉遣い,ものの言い方,
歌舞伎で,俳優の台詞回し,またその声色,

と載る。一般的には,後者のコトのように思う。『世界大百科事典 第2版』には,

「俳優の音声演技の一要素。歌舞伎俳優の発声法,せりふ回し,エロキューションなどのせりふ術と,声音,高低などの声の質の両面をいう。歌舞伎の演技は,おもにせりふとしぐさから成り立つが,なかでも,古来から〈一声二振三男〉といわれるほど口跡の良さは,役者の質を評価する重要な要素である。口跡は役者の財産という意識がそこにある。」

とある。因みに,

エロキューション(elocution)

とは,

(聴衆に対する)話(演説・朗読)の仕方,語り口,台詞回し,演説法,雄弁術,朗読法,

の意で,語源は,ラテン語「表現」の意だという。まさに,日本語で言う,

滑舌,

である。滑舌とは,

http://dic.nicovideo.jp/a/%E6%BB%91%E8%88%8C

に,

「人間が言葉をしゃべるとき、人間がその声を出す時、相手に理解してもらうために舌や顎や口をうまく動かしてはっきりとした発音をする。この動作が『滑舌』である。」

当然,口跡というとき,

発声法,せりふ回し,エロキューションなどのせりふ術
と,
声色、声の高さ、声の低さという基本的な声の質

の両面を指している。歌舞伎のせりふには,

「河竹黙阿弥作品に代表される七五調の音楽のような美しい名せりふや、『ツラネ』といって荒事芸などで主人公が花道で延々と(吉例などを)述べる長ぜりふ、2人以上の役者が交互に自分のせりふを喋り最後デュエットのように全員で声を合わせて終わる「割(わり)ぜりふ」、更には数人の役者がまるで連歌の会を催しているように順々にあとを続ける「渡りぜりふ」など、場面場面に応じた様々なせりふ術があります。」

というので,台詞回しはいのちと言ってもいい。もっとも,三田村鳶魚に言わせると,

「一体長いせりふを聞く芝居は二代目団十郎以来」

というのだから,言ってみると,自縄自縛の感がなくもない。例の,

俳優や声優などの養成所,或いはアナウンサーの研修等で暗唱,発声練習や滑舌の練習に使われている,

外郎売(ういろううり),

というのがある。全文は,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E9%83%8E%E5%A3%B2

にあるが,たとえば,

拙者親方と申すは、お立ち会いの中に、 御存知のお方も御座りましょうが、 御江戸を発って二十里上方、 相州小田原一色町をお過ぎなされて、 青物町を登りへおいでなさるれば、 欄干橋虎屋藤衛門、 只今は剃髪致して、円斎となのりまする。 元朝より大晦日まで、 お手に入れまする此の薬は、 昔ちんの国の唐人、 外郎という人、我が朝へ来たり、 帝へ参内の折から、この薬を深く籠め置き、用ゆる時は一粒ずつ、 冠のすき間より取り出す。 依ってその名を帝より、 とうちんこうと賜る。 即ち文字には、 「頂き、透く、香い」と書いて 「とうちんこう」と申す。

というで出しである。僕も,ボイストレーニングだか,朗読だかで,チャレンジさせられたことがある。

これは,劇中に出てくる外郎売の長科白で,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E9%83%8E%E5%A3%B2

に,

「外郎売(ういろううり)は、享保3年(1718年)正月、江戸森田座の『若緑勢曾我』(わかみどり いきおい そが)で二代目市川團十郎によって初演された歌舞伎十八番の一つである。 現在は十二代目團十郎が復活させたもの(野口達二脚本)が上演されている。」

とある。まさに,役者の台詞回しの見せ場を,団十郎自らが作り上げていった,というべきものなのかもしれない。

この台詞の口上は,

啖呵,

啖呵売,

ひいては寅さんのような香具師の口上につながっていく。このことは,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/435717090.html?1459023472

で触れた。

団十郎.jpg

九代目市川團十郎の虎屋東吉(鳥居忠清画)


参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E9%83%8E%E5%A3%B2
三田村鳶魚『江戸ッ子』(Kindle版)
http://ohanashi.edo-jidai.com/kabuki/html/ess/ess073.html


ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 05:04| Comment(0) | 江戸時代 | 更新情報をチェックする
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