2016年04月07日

こずむ


浅学にして「こずむ」という言い回しを知らなかった。

http://oshiete.goo.ne.jp/qa/2409543.html

にも,

「例えばココアを熱い牛乳に溶かした時に、溶けきらなくて粉が底に沈むことがありますね。そのような場合、私の家では『こずむ』と言っていたのですが、妻は『そんな言い方はしない』と言います。」

と,方言ではないか,という質問があった。しかし,辞書(『広辞苑』)には,「こずむ」は載っている。

かたよる,かたむく,特に馬がつまずいて倒れかかる,
ひとつところにかたよってあつまる,ぎっしり詰まる,混む,
筋肉が凝る,
気持ちが暗くなる,心もちが捩じれてくる,

という意味が載る。どうやら,「かたよる」とか「かたまる」という意味が,それのメタファーというかアナロジーで,意味の外延が広がっていったようである。その隠語として,

「相場が上へも、下へも動く気配の見えない場合」

にも使うらしいが,これも「かたよる」のメタファーとみることができる。漢字は,

偏む

と当てるが,「偏む」は,

かたずむ,

とも訓む。「かたずむ」は,

片ずむ,

とも当て,

かたよる,
一方へ傾く,

という意味になる。辞書(『広辞苑』)では,

「ツムのかなづかい未詳。一説に,『詰(つ)む』とも」

とある。『大言海』は,

片詰む,

とあてている。偏る(かたよる)は,

片寄る,

とも当てるので,確かに,片詰むというのは,意味から来ている。この意味は,「偏」の字を当てたせいかもしれない。

「偏」の字は,

「扁は,『戸(平らな板)+冊(薄いたんざく)』の会意文字で,薄く平らに延びたの意を含む。平らに延びればいきわたる(→遍),また,周辺にいきわたると周辺は中央から離れるの意を派生する。偏は『人+音符扁』で,おもに扁の派生義,つまり中心から離れてかたよった意をあらわす」

とあるので,この漢字の意味に引きずられている,ということはある。

『大言海』は,「こづむ」は,

片詰むの約,

とし,

「かづむ,こづむと転じたにはあらぬか,堅磐(かたしいは)をかしは,炊(かしき)を甑(こしき),聞かしめずを聞こしめず」

と,転訛の例を挙げている。とすると,「片詰む」が「こずむ」より先ということになる。

因みに,「かたよる」は,

「片+寄る」で,重みや考えが片方に寄るの意で,

「偏るは当て字」

とある。つまり,意味から,漢字「偏」を持ってきた,ということになる。『江戸語大辞典』では,

片詰む(かたずむ)

で表記し,「かづむ」「こず(づ)む」では載らない。で,かたよる,という意味の他に,

かたくるしい,
融通が利かない,

という意味を乗せる。「片づける」とも使う「片」は,

「介(人+八)わける意kat」からで,片方という意,

「蒙古語kaltas」で,「ツングース語kaltakas」が語源の側,片の意,

の二説ある。中国語「片」は,

「片は,爿(しょう 寝台の長細い板)の逆のかたちであるともいい,また木の字を半分に切ったその右側であるともいう。いずれにせよ,木の切れ端を描いたもの。薄く平らなきれはしのこと」

とある。切れ端が寄せられる,くっつけられる,ところから,片寄る,片付くがあるとすると,これも,「片」の意味から当てはめたもので,もともとは,ツングース系かどうかは別に,

「かた」

という言葉が,一方とか一片という意味で使われていて,それに漢字「片」を当てはめたことになる。

いつも思うが,

片詰む,

と書くのと,

かたづむ(かづむ)

と書くのとでは,明らかに,前者の方が,視界が開く。漢字の持つ威力を,また再確認させられた。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)



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