2016年04月08日

駆落ち


駆落ちは,今の常識では,

「恋し合う男女が連れだって密かに他の地へ逃亡すること」

という意味で,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A7%86%E3%81%91%E8%90%BD%E3%81%A1

には,

「駆け落ちは、愛し合っている男女の一方または双方の親に、身分や人種などを理由に結婚または交際を反対された場合や、男女の一方が既婚であったり、望まない結婚を親に強要された場合、最後の手段として決行する場合が多い。
未成年で一方または双方に保護者がいる場合の駆け落ちは、刑法上では結婚目的の略取・誘拐罪が適用される。
18世紀ごろのイングランドでは、結婚許可証の発行や異議申し立て期間の存在など、婚姻に関する厳しい制限があったため、イングランドを出てスコットランドのグレトナ・グリーンで結婚する駆け落ちが流行した。」

という意味しか載らない。しかし,辞書(『広辞苑』)には,他に,

密かに逃げて,行方をくらますこと,特に武士が戦場に負けて逃げること,
(「欠落」と書く)江戸時代,庶民が逃げうせること。いまの法律用語の「失踪」と同意に用いた。走り,逐電,出奔,

と意味が載る。『大辞林 第三版』には,所謂駆け落ち,「親から結婚の許しを得られない男女が,しめし合わせてひそかによそへ逃げ隠れること」の意味以外に,

逃げて行方をくらますこと。逐電。
戦国時代,農民が戦乱・重税などのために散発的あるいは組織的に離村・離郷すること。
江戸時代,貧困・悪事などのために,居住地を離れ行方をくらますこと。

を挙げ,これは,

「『欠落』と書く。武士には『出奔』の語が用いられる」

としている。

『語源辞典』には,

「語源は,『カケ(駆・駈)+落ち』です。こっそりと走って逃げる意です。近世以後,恋人同士が密かに逃げる意に用います。別に,戸籍から『欠け落ちる』説がありますが,近代的な戸籍法正立以前の語なので,疑問に思う。」

とあるが,江戸時代「人別帳」があり,必ずしもそうは思わない。三田村鳶魚は,

「無宿は 一定の住所のないものをいうのでなく、江戸の法律では、原籍のない者を指していう言葉なのです。 尊属の申立てによって、ところの名主を経て、町ならば町奉行、村ならば御代官の許可を得て、帳外と申しまして、人別帳から削除してしまう、そこで無籍の人間になる、帳外によって無籍になりますと、それを無宿と申すのです。…無宿狩で縛られるのは、ただ無宿者というのでなく、何の渡世にも有り付けない者です。真面目に奉公しようとしても、無宿者は請人がありませんから、雇ってくれる人もなけれ ば人宿でも相手にしません。」

と,無宿を言っている。つまり,必ずしも,近代以降とは限らない。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ka/kakeochi.html

にも,

「駆け落ちは、中世末期から見られる語。戦国時代から江戸時代までは、戦乱・重税・貧困・悪事などから、よその土地へ逃げることを表し、『欠落(欠け落ち)』と書いた。『欠落』と表記するのは、戸籍から欠け落ちることからとも言われるが、明治時代以前からある言葉なので、集団から逃げ出すことを『欠け落ちる』としたものである。『欠落』は『よその土地に逃げ込む』から、『駆け落ち』と表記されるようになり、『失踪』の意味から、男女が密かに他の地へ移り住むことを言うようになった。」

とあるが,人別のことは繰り返さない。『大言海』は,

「言缺(か)けて落ち行く義か,或いはカケは,駈けか」

と書き,一番目に,

戦いに負けて他所へ逃げ走ること,没落,

という意味を挙げる。『江戸語辞典』には,「かけおち」の項は,

「欠落」

で上げ,

「正しくは,駆落。もと軍用語で,戦に敗れ逃走する意」

とある。ここで連想するのは,

逃散,

と言われる,農民が大挙して逃げることだが,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%83%E6%95%A3

では,

「逃散(ちょうさん)とは、日本の中世から近世にかけて行われた農民抵抗の手段、闘争形態である。兆散とも言う。古代の律令時代に本貫から逃れて流浪する逃亡及び律令制解体後に課税に堪えずに単独もしくは数名単位で他の土地に逃れる逃亡・欠落とは区別される。」

と,集団逃亡と,欠落は区別されるようだ。『百科事典マイペディア』では,

「農民が自分の耕作地を放棄して逃亡すること。逃散には個々の農民が行う欠落(かけおち)と,集団で行うものとがあり,後者は支配者に対する有効な自覚的抵抗手段として14世紀ころから激増。」

と,『世界大百科事典 第2版』では,

「荘園制下の農民が,その家屋敷・田畠をすて荘外に逃亡することで,領主に対する抵抗の一形態。逃散には,個々の農民が行うもの(欠落(かけおち))と,集団で行うものとがあったが,惣村の成立以後,後者は自覚的な抵抗形態となり,逃散は単なる逐電と区別されるようになった。荘園制下の農民は,年貢課役の減免,非法代官の罷免などの要求を通すため,しばしば一揆を結成し,強訴(ごうそ)を行ったが,なお要求が認められない場合,最後の手段として全員が荘外に逃亡する逃散を行った。」

と,区別し,整理する。

「欠落(かけおち)」が,そういう意味だとすると,「欠落(けつらく)」と関連があるのではないか,と思ったが,『古語辞典』『大言海』には,「けつらく」では載っていない。現代の辞書(『広辞苑』)には,

かけおちること,
あるべきものがぬけていること,

と載る。あるいは,「欠落(かけおち)」が,「欠落(けつらく)」として,残ったのではないか。で,駆落ちに,恋人との逃避行の意味を振り分けたのではないか,と想像する。

因みに,「欠(缺)」の字について,

「欠(ケン)は,缺(けつ)とは別の字で,人が口をあけ,からだをくぼませて屈んださまで,くぼむ,掛けて足りないなどの意を含む。欲(腹がうつろで,物が欲しい)や,歌(体をかがめてうたう)に含まれる。缺は,『缶(ほどき,土器)+音符欠』。夬とは,コ型のくぼみに手をかけてえぐるさまで,抉(けつ えぐる)の原字。缺は,土器がコ型にかけて穴のあくことを示す。欠と缺は意味が似ているため混用され,欠を缺に代用するようになった」

とある。

参考文献;
三田村鳶魚『捕物の話』(Kindle版)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:09| Comment(0) | 中世 | 更新情報をチェックする
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