2016年04月12日
鉄火
鉄火については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/414618915.html
で,「いなせ」に触れた折,
「『鉄火』というのは,鉄火場,つまり博奕場である。しかし,『鉄火肌』の『鉄火』は,『鉄火(鉄が焼かれて火のようになったもの)』という意味から来ているので,気性の激しさを言っている。」
と書いたが,「鉄火」には,もう少し深い謂れがある。
先ず,手元の辞書(『広辞苑』)には,
鉄を熱くして真っ赤にしたもの,
戦国時代に罪の有無を試すために,神祠の庭前で熱鉄を握らせたこと。炎苦に耐えず投げ捨てたものを有罪とした,
刀剣と鉄砲,
弾丸の発射の火,
鉄火打の略。博徒。また博徒のようにきびきびして威勢のいいさま,侠客風,
鉄火丼の略,
鉄火巻きの略,
と載る。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E7%81%AB
は,「鉄火」について,
「鉄が赤く焼けている様や鍛冶仕事の火花でもあるが、そこから鍛冶の中でも神事や武士との繋がりが強い、刀鍛冶・鉄砲鍛冶を指すようになり、ひいては刀・鉄砲を表す。またその使用時には刀も鉄砲も火花を散らす事も鉄火を意味するようになった。そこから戦場や戦という意味に転じ、戦(いくさ)や死を意味する修羅場、または勝負事(賭け事)という意味を持つようになった。もう一方では黒鉄(くろがね)が真赤に変化することや、その赤く焼けた鉄の比喩や、金属の特徴の一つでもある熱伝導率が高いことが、いわゆる『熱しやすく冷めやすい』という鉄の特徴を、捉えた比喩としても用いられた。」
とある。どうやら,鉄火の,
鉄を厚くして真っ赤にしたもの,
のメタファーから,その結果としての刀や鉄砲になり,さらに,いくさ場になり,賭け事の場にまでなった,ということか。三田村鳶魚は,
「西沢一鳳が解説しています、昔は、武内宿禰と甘内宿禰とが争って、熱湯に手をさし込んでその正邪を神にただした、ということがありますが、鉄火を執るということは、戦国時代によく言った言葉で、天神地祇に誓って、火で真赤に焼いた鉄を掴み、それで火傷をしない方を勝とする、善悪正邪の争いの時、鉄火を執っても自分の主張の正しいことを見せる、なんていうことがあった。一か八か、神祇の罰利生を覿面に見ようとする。テキパキ片づくところから、『 鉄火』 という言葉を生じた。」
と,
鉄火を執る,
というのが,善悪正邪の判定法,だったということを言っている。
火起請(ひぎしょう),
ともいい,
「鉄火裁判」
や
「鉄火の裁判」
ともいわれるらしい(『真田丸』のなかでもそんなエピソードをやっていた)。鉄火には,ただ,鉄が熱せられたという意味だけではなく,真偽,成否,是非を明らかにする,というニュアンスが色濃くあるのではないか,そこから,鉄火場の博奕場につながる意味の糸がある。因みに,
熱湯に手をさし込んでその正邪を神にただした,
というのは,
盟神探湯(くかたち,くかだち,くがたち)
のことであり,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%9F%E7%A5%9E%E6%8E%A2%E6%B9%AF
には,
「古代日本で行われていた神明裁判のこと。ある人の是非・正邪を判断するための呪術的な裁判法(神判)である。探湯・誓湯とも書く。対象となる者に、神に潔白などを誓わせた後、釜で沸かした熱湯の中に手を入れさせ、正しい者は火傷せず、罪のある者は大火傷を負うとされる。毒蛇を入れた壷に手を入れさせ、正しい者は無事である、という様式もある。あらかじめ結果を神に示した上で行為を行い、その結果によって判断するということで、うけいの一種である。」
とある。話を元へ戻すと,それにしても,鉄火にまつわる言葉は,多い。
「鉄火打ち」は,博打打,
「鉄火場」は,ばくち場,賭場(とば),
「鉄火肌」は,勇敢ではげしい気性,またその人。多く女性についていう,伝法肌,
と,博奕がらみだが,
鉄火丼,
鉄火巻,
鉄火味噌,
の「鉄火」は,どこから来たのか。「鉄火巻」について,
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1410405944
では,
「鉄火場で食べられたのが鉄火巻きです。手に米粒がつかないように海苔で巻いたのです。」
とか,「鉄火丼」も,
「鉄火場で食事せしやすい丼」
という説がある。しかし,『日本大百科全書(ニッポニカ)』
https://kotobank.jp/word/%E9%89%84%E7%81%AB-576046
には,
「鉄を熱して赤くなったのを鉄火というが、転じて活気みなぎる意のこと、さらには、裸で博打(ばくち)をする者の意にも用いる。また料理名にもよく使われる。江戸時代の『皇都午睡(みやこのひるね)』のなかに、『芝えびの身を煮て細末にし鮨(すし)の上に乗せたるを鉄火鮓(ずし)と云(い)うは身を崩してという説なるべし』とあり、これは博打の意から転じた名称である。また『春色恵の花』に、『鉄火味噌(みそ)に坐禅(ざぜん)豆梅干』とあり、鉄火みそは江戸時代からあった。色が赤く、辛味がきいているものにも鉄火の名がつけられた。鉄火みそは、炒(い)り大豆、刻みごぼう、麻の実などを油で炒(いた)め、みそやみりんなどを加えて練り上げる。マグロを用いた料理に鉄火の名がしばしば使われているが、天保(てんぽう)(1830~1844)中期以前にはすしにマグロは用いていない。鉄火巻きの名称は明治以降からみられ、また、マグロの角切りを丼(どんぶり)飯の上に置き、焼きのりをふりかけたものを鉄火丼(どん)と名づけたのは大正以後とみられる。鉄火和えは、マグロを粗い賽(さい)の目に切り、熱湯をくぐらせたミツバ(2センチメートル長さに切る)少々を加え、わさびのきいたしょうゆで和えたものである。」
と載り,俗説らしい。
『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/te/tekka.html
にも,
「鉄火巻きの『鉄火』は、もともと真っ赤に熱した鉄をさす語である。マグロの赤い色とワサビの辛さを『鉄火』に喩えたもので、気質の荒々しい者を『鉄火肌』や『鉄火者』というのと同じである。賭博場を意味する『鉄火場』に由来し、手に酢飯が付かず、鉄火場で 博打をしながらでも手軽に食べられるからとする説もあるが、『鉄火』のつく食べ物には『鉄火丼』や『鉄火味噌』もあり、これらに共通するのは、『赤い色』と『辛さ』で、『鉄火場』も『手軽さ』も関係ないため、この説は間違いと言える。ただし、『鉄火場』の『鉄火』も同源で,熱した鉄のように博徒が熱くなるからという。」
赤のメタファや熱くなるメタファで,「鉄火」という冠がかぶせられたということに過ぎないようだ。もともとの神事にかかわる意味から,ずいぶん遠くまできたものだ。
参考文献;
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E7%81%AB%E5%B7%BB
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E7%81%AB
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
三田村鳶魚『江戸ッ子』(Kindle版)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください