けんつく
「けんつく」は,
剣突,
と当てる。
荒々しく叱りつける,
という意味になる。
剣突を食う,
とか
剣突を食らわす,
という言い回しをする。面白いのは,『大言海』で,
「此語の類に,けんつん,つんけん,と云ふ語あり」
として,意味に,
「又,剣呑。荒々しく物云ふこと」
と意味を載せ,「つんけん」「けんつく」「剣呑(けんのみ)」が類語,だと言っていることだ。で,「剣呑(けんのみ)」の項をみると,
けんつきの條をみよ,
とある。面白いのは,「剣呑(けんのん)」は,別に項がたてられ,
「険難の轉にて(わななく,おののく),険難なる處を危ぶむより移りたるか」
として,
「危うきこと」
という意味を載せる。因みに,剣難の語源に,
「けんなん(剣難)」の音変化という」
とあるものがあるが,剣難が当て字なので,むしろ「険難の転」の方が,自然だろう。
いずれにしても,どうも,「剣突」は「剣呑(けんのみ)」とは重なるが,「剣呑(けんのん)」とは意味が重ならない,ということになる。調べてもよくその違いが分からない。
剣突は,
言動がとげとげしい,
あるいは
つけんどん,
という意味だから,
けんつん,
つんけん,
つんつん,
と意味は,重なる。
「つんけん」は,
不機嫌,無愛想,
「つんつん」は,
態度が取り付く島がないさま,
で,言ってみると,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/420594101.html
で触れた,「けんもほろろ」とほぼ同じ意味領域になる。『江戸語辞典』には,「剣呑(けんのみ)」は見当たらず,「剣突」と「剣呑(けんのん)」のみ載せる。それぞれ, 「剣突」は,
つっけんどんに言う,
とし,「剣呑」は,
(けんなんの転と)危ないこと,安心がならぬこと,
とし,両者をつなげるものがない。しかし,不機嫌な人や危ない人に出会うと,
「けんのん,けんのん」
と,(いまはあまり使う人を見かけないが),言っていたような気がする。してみると,『大言海』は,「けんのん」がそういう使われ方をするまでの過渡としての「けんのみ」を拾っていたのかもしれない。つまり,
kennan→kennomi→kennon
あるいは,
kennan→kennon
と
kennan→kennomi
と別々の転訛があり,「けんのみ」という言い回しが,日本語としては言いにくいので消えた,というような。しかし,意味としては,
相手が不機嫌だから危険,
の,心の「剣呑」感とつなげたと,見なせば,意味の重なりは自然と見えなくもない。まあ,億説だが。
参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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