檜舞台
檜舞台というのは,辞書(『広辞苑』)には,
ヒノキの板で張った,能楽・歌舞伎などの格の正しい舞台,
転じて,自分の腕前をあらわす晴れの場所,
とある。これを,
晴れ舞台,
つまり,
人前で何かをする、重要で晴れがましい場所・場面,
と言い換えると,また微妙に意味が変わるかもしれない。「晴れ」は,
空に障害物,雲,霧などがなく,ハレバレした様,
だが,「ハレとケ」の「ハレ」だと,
「ハレ(晴れ、霽れ)は儀礼や祭、年中行事などの『非日常』、ケ(褻)は普段の生活である『日常』を表している。…ハレとは、折り目・節目を指す概念である。ハレの語源は『晴れ』であり、『晴れの舞台』(=生涯に一度ほどの大事な場面)、『晴れ着』(=折り目・節目の儀礼で着用する衣服)などの言い回しで使用されている。」
という意味で,
「江戸時代まで遡ると、長雨が続いた後に天気が回復し、晴れ間がさしたような節目に当たる日についてのみ『晴れ』と記した記録がある。」
とあり,檜舞台に比べて,晴れ舞台は,より特別度が増す。それは,ともかく,
檜でできた舞台,
というものが特別のものでなくては,こういう「晴れの場所」という意味への転じ方はないはずである。
『ブリタニカ国際大百科事』には,
「一流の劇場の略称。かつて檜 (ひのき) の板で床を張ったのは,大劇場の舞台のみだったことから起こった呼び名。そのために大芝居に出演することを『檜舞台を踏む』と呼ぶようになった。」
『日本大百科全書(ニッポニカ)』には,
「ヒノキの板で床(ゆか)を張った舞台のこと。能舞台の総ヒノキ造りに影響を受け、一般的には杉を使っていたのを上等な劇場ではヒノキを使うようになり、したがって『檜舞台』といえば、大劇場または格式の高い劇場の意味になった。大芝居に出演すること、あるいは日常でも名誉の場所に出ることを『檜舞台を踏む』という。」
等々,檜張りは特別のものらしい。「演劇用語」として,
http://www.moon-light.ne.jp/termi-nology/meaning/hinokibutai.htm
では,
「今も昔も、檜(ひのき)は高価なもので、舞台の材質としても檜を超えるものはなかったようです。では、お金があれば作れるかというとそうでもない。江戸時代には、檜の舞台が許されていたのは、『能楽』『歌舞伎』などの幕府公認の劇場だけだったそうです。つまり、『檜舞台』に立つということは一流として認められることを意味していたのですね。俳優の夢だったのでしょう。」
とある。これなら,晴れ舞台の意味がより強く出る。それ以上に,檜そのものが希少価値だったことが,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%8E%E3%82%AD
に出ている。
「木目が通り、斧や楔で打ち割ることによって製材できるヒノキは古くから建築材料として用いられてきた。既に『古事記』のスサノオ神話の中で、ヒノキを建材として使うことが示唆されている。特に寺院、神社の建築には必須で古くから利用された。そのありさまは、大阪府の池上・曽根遺跡で発掘された弥生時代の神殿跡に見ることができる。飛鳥時代のヒノキ造りの建築はすぐれたものが多く、法隆寺は世界最古の木造建築物として今日までその姿を保っているほか、主として奈良県内に存在する歴史的建築物はいずれもヒノキを建材としたことによって現存するといって過言ではない。もっとも、その有用性ゆえに奈良時代には大径材は不足をきたしていた。」
とあり,既に,治承年間(1177年 - 1180年),平重衡の南都焼討によって炎上した東大寺復興に当たっては,近畿地方各地ではヒノキの大径材が得られず,周防国や長門国までを求めたとされ,江戸初期,諸大名による大城郭や城下町の建設も相まって大木の払底をきたしていて,
「松永久秀の東大寺大仏殿の戦いで再度炎上した大仏殿は江戸時代初期に再建されたが、用材もヒノキは諦め、ケヤキの心材をスギの小材で覆い、金輪で締め上げた一種の集成材を柱」
とした,とある。すでに,檜は,品薄で,特別の場所でしか,張れない建材になっている。辞書のいう「格の正しい場所」とはそういう背景があるらしい。
「ひのき」の語源は,『語源辞典』には,二説載せる。
「火の木」説。昔から火切り杵などに使われ,火を作り出すときに,この木を用いたのが語源,
「ヒ(霊・秀)+の木」説。すぐれて立派な木(万葉音韻甲乙に合致)の意が語源。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%8E%E3%82%AD
は,
「ヒノキの名称は、『すぐ火がつく』から『火の木』となったとの説もある(錐もみ法で火を付けるときにヒノキを用いることも多い)。しかし、上代特殊仮名遣によると、ヒノキの『ひ』は甲音であるのに対して、火の『ひ』は乙音なので、上代特殊仮名遣を前提とするならば、この説は妥当ではないとする見かたもある。(ただし上代特殊仮名遣には異論も存在する)。 その他、神宮の用材に用いるところから『霊(ひ)の木』、『日』は太陽を表す最も古い語形で最高のものを表すところから『日の木』とする説があり、「日」「霊」共に甲音なので、いずれかがヒノキの語源と考えられる。」
とする。因みに,上代特殊仮名遣については,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E4%BB%A3%E7%89%B9%E6%AE%8A%E4%BB%AE%E5%90%8D%E9%81%A3
に詳しい。
『古語辞典』は,「ひ(檜)」(ヒノキの古称は「ヒ」)の項で,
「ヒノキを『火の木』とみる説があるが,『火』は,F ïの音,『檜』は,Fiの音で,この説は成立困難」
とする。なお,
「中国においては、『檜(桧)』という漢字はビャクシン属を指す。日本では木曾に樹齢450年のものが生息しているのが最高であるが、台湾では樹齢2,000年のものが生息している。」
とか。「檜」の字を当てているが,別の樹らしい。別名,いぶき。
「イブキ(伊吹、学名:Juniperus chinensis)は、ヒノキ科ビャクシン属の常緑高木。 別名ビャクシン(柏槇)、イブキビャクシン(伊吹柏槇)、シンパク(槇柏、真柏)。」
漢和辞典には,
「ひのき科の常緑樹。普通は小木だが,大木になるものもある。」
とある。因みに,「檜」の方は,
「ヒノキ(檜、桧、学名:Chamaecyparis obtusa)は、ヒノキ科ヒノキ属」。
参考文献;
https://kotobank.jp/word/%E6%AA%9C%E8%88%9E%E5%8F%B0-162219
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%8E%E3%82%AD
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AC%E3%81%A8%E3%82%B1
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