2016年05月03日

落書


この場合,落書は,

らくがき,

ではなく,

らくしょ,

と訓む。辞書(『広辞苑』)には,「らくがき」のほかに,

「時事または人物を風刺・嘲弄した匿名の文書。人目につきやすい場所や権勢家の門などに貼りつけ,または道路に落としておくもの。」
「中世における匿名の投書。また,それが自社によって制度化されたもの。落書起請。」

という意味が載る。「らくがき」は,

「門・壁など,書いていけない場所にいたずら書きすること」

で,重ならなくもないが,戯れにするのと,意図的に主張をするのとの違いだろう。人を貶めるために,意図して,例えば,横井小楠を貶めるために,彼の書いたとする偽書,

『天道覚明書』

を,阿蘇神社に投げ込む,ということをした。これも,落書の一種だろう。横井小楠については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163207.html
http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163208.html

で触れた。かつては確か,

落首

というものがあった。落書の一種だが,辞書(『広辞苑』)に,

諷刺・長老・批判の意をこめた匿名の戯れ歌。

とあるように,封建時代には,政道批判の手段としてしばしば使われた。『世界大百科事典』には,しかし,

「日本では,〈落書〉を〈らくしょ〉と読んだ時代が長く,そもそもは〈落首(らくじゆ)〉に由来することばである。落首は,詩歌の形で時事や人物を諷した章句を門や塀にはったり,道に落として世間の評判をたてようとする行為や作品をいった。」

とある。

御所柿(徳川家康)は 独り熟して 落ちにけり 木の下に居て 拾う秀頼 (二条城の落首)

や,二条城普請に石運びの人員を動員した織田信長を皮肉った,

花より団子の京とぞなりにける今日も石々あすもいしいし(団子(いしいし)とは団子の女房ことば)

という落首も,その背景に,

「本歌をただまねたり,作り直したりするのではなく,本歌を連想させながら新しい歌境を生み出すことが重要であった。中世に多くみられた落首(狂歌体で,政治に対する風刺的批判を込めた句)なども替歌の一種とすることもできよう。落首の起源は権力者に対する寓意的批判を込めた童謡(わざうた)としての,いわゆる流行歌(はやりうた)にあり,名君たるもの巷(ちまた)の童謡に心すべしといわれた。」

がある。『大言海』には,落書を,

「おとしぶみ(落文)」に同じ,

とあり,「おとしぶみ」の,

「現(あらわ)に言ひ難き事を,誰が仕業とも知られぬやうに,文書(かきもの)にして,路などに遺(おと)しおくもの」

という説明がふるっている。「落首」については,

「落書の訛といふ,落書の一首の意か」

とあり,落書と落首,いずれが先とも決めかねる。しかし,「らくしょ」と「らくがき」とは,

「時の政情や社会風潮の風刺・批判,陰謀の密告,特定の個人に対する嘲弄・攻撃のために作成し,ひそかに,人目につきやすい場所に落としておいたり(落しぶみ),門戸や壁に書きつけたり,紙に書いて掲示したりした匿名(とくめい)の文書。詩歌の形式によるものは,とくに〈落首(らくしゆ)〉といいならわしてきている。また,いわゆる〈いたずらがき〉としての〈らくがき〉(落書,楽書)は,〈らくしょ〉が変化したものであるが,本来のそれとは区別されている。」(『日本大百科全書(ニッポニカ))

と,まったく別と考えた方がいい。

いずれにしても,「落首」も「落書」も,その意図から,権力者にとっては憎むべきものらしく,

http://www.daitakuji.jp/2013/09/17/%E5%A3%81%E3%81%AB%E8%90%BD%E6%9B%B8%E3%81%8D%E3%81%AF%E3%83%80%E3%83%A1-%E8%80%B3%E9%BC%BB%E5%89%8A%E3%81%8C%E3%82%8C%E3%81%A6%E7%A3%94%E5%88%91/

にあるように,天正十七年(1589)聚楽第の白壁に夜陰に乗じて,

大仏の くどくもあれや 鑓かたな くぎかすがいは こだからめぐむ

と,刀狩を皮肉った落書があり,これに立腹した秀吉が,

「聚楽第守備兵17人の鼻耳を削いでの逆さ吊り刑」

にしたという。

先日,平成の今日,

http://www.sankei.com/affairs/news/160428/afr1604280034-n1.html

http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/16316

に,地下鉄のドアなどに貼付された資生堂の広告に,

「最近の読売や産経のように,あまりにも権力べったりになるなら,“政党機関紙”でいい。新聞は,『アベノミクスで景気が良くなる』というが,嘘ばっかりだ。報道ではなく,政権の応援だよ。」

という「政治的な主張を載せた『偽広告』ともいえる印刷物が見つかっていた」と,報じられた。現代版の,

落書

である。これは,

「東京メトロによると、広告は大手化粧品会社資生堂(東京都中央区)が平成24年ごろから始めたという。地下鉄の出入口ドアの左右にピンクを基調としたステッカー広告で、左に資生堂が発売している化粧品『エリクシール』を、右側に『大人女子のあるある川柳』が掲載されている。」

というのに紛れ込ませて,

「カラーコピーして本物の広告そっくりに似せて作られ、本物のステッカー広告の上に別のものを貼ったとみられる。『ELIXIR』「エリクシール体感 検索」といった細かい部分まで酷似していた」

もので,なかなか手の込んだ,現代版,

替え歌,

でもある。落書で有名なのは,

二条河原の落書,

で,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%9D%A1%E6%B2%B3%E5%8E%9F%E3%81%AE%E8%90%BD%E6%9B%B8

にあるように,

「建武の新政当時の混乱する政治・社会を批判、風刺した七五調の文書。専門家の間でも最高傑作と評価される落書の一つである」

とされ,確か教科書にも載っていた記憶がある。88節に渡るが,冒頭は,有名な,

此頃都ニハヤル物 夜討 強盗 謀(にせ)綸旨
召人 早馬 虚騒動(そらさわぎ)
生頸 還俗 自由(まま)出家
俄大名 迷者
安堵 恩賞 虚軍(そらいくさ)
本領ハナルヽ訴訟人 文書入タル細葛(ほそつづら)
追従(ついしょう) 讒人(ざんにん) 禅律僧 下克上スル成出者(なりづもの)

である。この落書,

「中国の『書経』・『説苑』由来と見られる文言や今様の尽くし歌風の七五調の要素を持つ一種の詩をかたどった文書であり、漢詩や和歌に精通している人物」

が書いたと言われる。今日のそれはさほどではないが,手間暇をかけてはいる。

「二条河原の落書」の詳細は,

http://www.marino.ne.jp/~rendaico/gengogakuin/rakusyo/nijyogawara.html

に譲る。

参考文献;
http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/16316
http://www.sankei.com/affairs/news/160428/afr1604280034-n1.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%90%BD%E9%A6%96
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E6%9D%A1%E6%B2%B3%E5%8E%9F%E3%81%AE%E8%90%BD%E6%9B%B8


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