2016年05月07日

めっそうもない


「めっそうもない」は,

滅相もない,

と当てる。辞書(『広辞苑』)には,

とんでもない,
有り得べきことでない,

という意味が載る(「また、相手の言を否定するときにも用いる。」と追記する辞書もある)。語源は,

「滅相(仏教語 一切のものが滅んでいく相)」

から来ているらしい。『由来・語源辞典』

http://yain.jp/i/%E6%BB%85%E7%9B%B8%E3%82%82%E3%81%AA%E3%81%84

は,

「仏教で、万物が生滅変化する4つの段階を四相(生相・住相・異相・滅相)といい、その1つの『滅相』は因縁によって生じた一切の存在を過去の存在として滅し去る、心身が消滅する意。そこから、とんでもない意で『滅相な』『滅相もない』のようにいう。」

とあり,『語源由来辞典』

http://yain.jp/i/%E6%BB%85%E7%9B%B8%E3%82%82%E3%81%AA%E3%81%84

は,

「滅相とは,仏教語で,物事や生物の移り変わりを四段階に分けた四相の一。四相では,事物がこの世に出現することを『生相』,存続・持続することを『住相』,変化することを『異相』,消えてなくなることを『滅相』という。滅相の業が尽きて命が終る段階の意味から,『とんでもない』という意味の『滅相な』が生まれ,『滅相な』どころでないという意味から『滅相もない』と使われるようになった。」

「滅相」は,『大言海』に,「めっさう」に,

「麤四相,生相,老相,病相,死相。細四相,生相,住相,異相,滅相とみえたり」。

とあり,四相(しさう)を見よとある。

「生,老,病,死を一期の四相と云ひ,生,住,異,滅を有為の四相と云ひ,我相,人相,衆生相,壽者相を識境の四相と云ふ。即ち,我相とは,自己の我の実在するを執するもの,人相とは他人の我の実在するを妄執するもの,衆生相とは,衆生界,又は自己心識の作出ものなるを知らずして,以前より実在するものと信ずるもの,壽者相とは,自己の,この世に住する時間の長短に執着するもの。」

とある。四相は,『大辞林』の説明がわかりやすい。

①事物が出現し消滅していく四つの段階。事物がこの世に出現してくる生相(しようそう),持続して存在する住相,変化していく異相,消え去っていく滅相。
②人間の一生に① を当てはめたもの。すなわち,生・老・病・死の各相。
③人々がその心身に執着するために抱く四つの誤った相。我・人・衆生(しゆじよう)・寿者の四相。

ある,ということになる。

四相を悟る,

とは,事物の生滅と,人の生死と,妄執を知り尽くした,という意味で,

知慮すぐれ,聡明である,

ということになる。

「無為」と「有為」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/437499017.html

で触れたが,「有為」とは,

「〈梵〉saṃskṛtaの訳。作られたものの意》仏語。因縁によって起こる現象。生滅する現象世界の一切の事物。」

「無為」とは,

「〈梵〉asaṃskṛtaの訳。仏語。人為的につくられたものでないもの。因果の関係を離れ、生滅変化しない永遠絶対の真実。真理。」

とある。「有為の奥山」は,例の,いろは歌だが,

無常の世を脱することのむつかしさを深山に喩えている,いろは歌自体が,

「色は匂へど散りぬるを我が世誰ぞつねならむ有為の奥山今日超えて浅き夢見じ酔ひもせず」

と,涅槃経の,

「諸行無常,是生滅法,生滅滅已,寂滅為楽」

を和訳したもの,とされている。有為の意味が浸透していなくては,この和歌の意味がないはずである。

http://www.otani.ac.jp/yomu_page/b_yougo/nab3mq0000000s0x.html

に,

「『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたる例なし。』
 『方丈記』冒頭の有名な一文である。生じたものは必ず変化し滅びるものである。(中略)仏教は、このように変化するものを「有為法(ういほう)」といい、常に変化し続けることを「諸行無常」という。有為法は、因縁によって〈生〉じ、〈存続〉し、〈変化〉し、〈消滅〉する。この変化をそれぞれ生相(しょうそう)・住相(じゅうそう)・異相(いそう)・滅相(めっそう)と名づけ、有為の四相と呼んでいる。四相のうち「滅相」とは〈消え去るすがた〉という意味である。」

とある。鴨長明もまた,「有為の奥山」を共有していたことがわかる。

因みに,「滅法界」の「滅法」と「滅相」を混同した,

滅相界,

という言葉が,『江戸語大辞典』に載っている。意味は同じだか,

とんでもなさ,

が倍加するようだ。

参考文献;
http://www.otani.ac.jp/yomu_page/b_yougo/nab3mq0000000s0x.html
https://kotobank.jp/word/%E5%9B%9B%E7%9B%B8-520101#E5.A4.A7.E8.BE.9E.E6.9E.97.20.E7.AC.AC.E4.B8.89.E7.89.88
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)


ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 05:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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