せりふ
「つらね」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/437711489.html
で書いたが,これは歌舞伎独特の台詞である。台詞は,
科白,
とも当てる。『江戸語大辞典』には,「せりふ」とルビを振って,
演説,
分説,
が載るが,一般には,
芝居で,俳優が劇中の人物として述べることば,
だが,そこから,
一般に言うこと,述べること,
に転じて,
決まり文句,儀礼的な言葉(「お得意の台詞だ」),
人に対する言葉,言いぐさ(「そんな台詞は聞きたくない」),
苦情を言うこと,云い分を延べること,談判(「お花はこちの奉公人、親仁との台詞なら、どこぞ外でしたがよい」),
と意味が広がり,
支払いをすること,
という意味まである。これは,
「今夜中にせりふしてくださんせにやなりませぬ」
という例が載っている(『広辞苑』)。どうも,談判の特殊例なのかもしれない。『江戸語大辞典』には,
「芸妓が客に体をゆるすときの条件につき話し合うこと」
という意味が載っている。『ブリタニカ国際大百科事典』には,
「劇のなかで俳優によって語られる言葉で,演劇の本質的要素の一つ。2人以上の登場人物の間でかわされる対話 dialogue (→ダイアローグ ) ,自己の心境や感情を観客に向ってひとりで語りかける独白 monologue (→モノローグ ) ,他の登場人物の面前でしゃべりながら相手役に聞えないという舞台上の約束のもとで自分の考えその他を述べる傍白 aside (アサイド) などの形式がある。」
とあるし,『世界大百科事典 第2版』にも,
「〈科白〉〈白〉などとも書かれる。よく行われるせりふの形式上の一分類としては,2人あるいはそれ以上の登場人物の間で交わされる〈対話(ダイアローグdialogue)〉。登場人物が自分自身の考えや感情などをみずからに問いかける形をとる〈独白(モノローグmonologue)〉(モノローグ劇),対話中に対話の当の相手には聞こえないという約束で横を向き独りごとのように言う〈傍白(アサイドaside)〉などがある。」
と,対話と独白とを整理している。そういえば,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/437711489.html
でも取り上げたが,
http://ohanashi.edo-jidai.com/kabuki/html/ess/ess161.html
で,歌舞伎のセリフを,
1.1人で言うせりふ
(1) 普通のごく一般的なせりふ,
(2) 独白 独り言,
(3) 名乗りせりふ 松羽目物で役者が登場したときに述べるせりふ,
(4) つらね 主として荒事芸などで主役が花道で述べる長ぜりふ
(5) 厄払い つらねの一形態ですが、せりふの中に厄落しの文句が入るので特にこう呼ぶ,
2.2人以上で言うせりふ
(6)渡りぜりふ 一連のせりふを2人以上の役者が互いに次へ受け渡しながら分担していうせりふ,
(7) 割りぜりふ 2人以上の役者が別々の思いを交互に喋りながら最後には共通の結論を同時に発して締めくくる,
3.共通
(8) 名せりふ 歌舞伎ファンなら誰でも知っているいわずと知れた名せりふ,,
(9) 捨てぜりふ 役者がその場でアドリブで言う短いせりふのこと。
と,私説として分類しているが,この分類を見ると,「せりふ」という言葉が,その意味の外延を広げて,世の中に広まっていく経緯を彷彿とさせる,用例の見本市のようでもある。
「せりふ」の語源は,
「セリ(競争・競る)+フ(節・言葉)」
で,競り合っていいあう文句,述べあう言葉,である。
『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/se/serifu.html
には,
「セリフは、『競り言ふ(せりいふ)』を約した言葉といわれ、江戸初期頃から見られる。 漢字の『台詞』は、『舞台詞(ぶたいことば)』の上略。『科白』を中国語からの借用で、中国では『科』は劇中の俳優のしぐさ、『白』は言葉のことで、俳優のしぐさと台詞を意味するが、日本ではセリフに当てる漢字として用いられたため、しぐさの意味は含まれていない。このほか、せりふの漢字表記には、『分説』『世理否』『世利布』がある。古くは『世流布(せるふ)』『せれふ』と言っており,『せりふ』より古い語形とも考えられている。」
とある。『大言海』にも,「競り言ふの約」「舞台詞の略」と載る。「科白」の記述が気になるので調べると,『漢字源』に,「科」の字は,
「『禾(いね)+斗(ます)』で,作物をはかって等級をつけることを示す,すべての物事の等級を科という。」
とある。したがって,
品定めをした分類,
分類して排列した部門や条文,
といった等級や分類に当たる意味だが,通俗的に,
しぐさ,芝居で,俳優が行う動作,
とあり,「白(せりふ)」で,「科白(かはく)」で,「しぐさとせりふ」とある。「白」の字は,象形文字で,
「どんぐり状の実を描いたもので,下の部分は実の台座。上半は,その身。柏科の木の実のしろい中みをしめす。」
とあり,基本は,白いか,無色の意味だが,「告白」というように,動詞として,「マヲス」,
「内容をはっきり外に出して話す」」
という意味があり,通俗的には,
「飾り気のないさま」
という意が転じて,
「芝居のセリフ」
という意味になる,とある。「説白」(口語のせりふ),「白話」(口語)という用例がある。
参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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