2016年05月19日
兼ね合い
「兼ね合い」は,
二つのものがうまくつりあいを保つこと。均衡,
よい程合,
といった意味になる。辞書(『広辞苑』)には,別に,
兼ね合う,
の項があり,
軽重が釣りあう,均衡する,
という意味とは別に,
互いに気兼ねする,
という意味が載る。語源は,
「カネ(兼・両方の釣りあい)+アイ(合わせる)」
として,「両方の事情,条件を考え,つり合いをうまく保つこと」とある。
因みに,漢字の「兼」は,
「日本の禾(いね)+手」
で,「一緒に併せ持つさまを示す」という。だから,かねる,とか,二つ以上を合わせる,という意味を持つ。しかし,我が国では,この「兼ね」を,独特の使い方をしている。ひとつは,
「他の動詞の連用形につき,それをし遂げようとしても不可能・困難の意をあらわす」
という意味で,たとえば,「~しようとしても力及ばない」という意味で,
「~し兼ねる」
という使い方に用いる。または,「~していることに堪えられない」という意味で,
「~し兼ねない」
のかたちで,例えば,「見るに見兼ねる」という用い方をする。
いまひとつは,「まえもって」「あらかじめ」という意味で使う。『古語辞典』には,
「現在のありかを基点として,時間的・空間的に,一定の将来または一定の区域にわたる意」
として,
現在の時点で,今から既に将来のことまで予定する。見込む(「千年をかねてさだめけむ奈良の都」),
時間的に今から長期にわたる(「あらたまの年月かねてぬばたまの夢にし見えむ君が姿は」),
現在点を中心に一定の区域のにわたる(「一町かねて辺りに人のかけらず」),
併せたもつ,
兼職する,
あちこちに気をつかう,
とあり,「兼ね」「合う」は,その意味で気づかいが釣りあう,という意味になったと想像される。
『大言海』は,「兼ね合ふ」について,
軽重,均しくして,偏らぬこと,程に適うこと,
と書く。「程に適う」という言い回しがいい。
「程」は,『古語辞典』には,
「奈良時代ではホトと清音。動作が行われているうちに時が経過推移していくことの,はっきりと知られる,その時間を言う。道を歩くうちに,経過する時間の意から,道のり・距離,さらに奥行,広さなど空間的な意味にも使われた。平安女流文学では,時間の推移に伴って変化する物事の様子・具合・程度を言い,広く一般的に物事の程度を指すように使われた。中世になると,時間の経過をいう意は減少し,時間の全体よりも,時間の流れの到達点,時間の限度の意に片寄り,時の中の一点を指すとともに,数量や程度の極度に目立つさま,あるいは限度などの意を表した。他方,平安時代には,経過する時間の意から発展して,時間の進展の結果をいうようになり,~ので,~からという原因・理由を示す助詞の用法が生じた。漢文訓読体では,動作や行為の持続する時間を示す『頃』『中』『際』などの漢字もアヒダと訓んでいる。」
と注記があり,「程」もなかなか奥が深いが,
程に適う,
は,「程々」,
丁度良い程度,
という意味と考えていい。なかなか,
兼ね合い,
という言い回しは含蓄があり,
釣合い,
バランス,
均衡,
というのとは少しく違う気がする。その比較衡量するの両者の中だけで自己完結してのつり合いではなく,周囲を見渡し,気配りした上での,釣りあい,というニュアンスがある。敢えて言えば,
振り合い,
という言葉が,その細かに気配り,目配りを含意しているのを言い表している気がする。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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