2016年05月28日

しろ


色としての「しろ」については,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD

に詳しい。『語源辞典』には,二説載る。

ひとつは,「『著し(しろし)』で,目立つ,意」
いまひとつは,「『素(シロ,生地のまま)』で,手を加えない,素材の色」

とあるとする。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/si/shiro.html

は,

「白は、形容詞『白し(しろし)』の語幹。 枕草子に『春はあけぼの やうやうしろくなり行く』とあるが、この場合の『しろく』は、明るくはっきりしたさまを表している。『著しい』を古くは『いちしるし(いちしろし)』と言い、この『しるし(しろし)』は『はっきりしている』という意味である。『目印』などと用いられる『しるし』も、はっきりしたさまを表している。白の語源は、これら『はっきりしたさま』を意味する『しろし』『しるし』に通じる。また『し』の音には指示性のある語が多く,明確さをあらわす語であったと思われる。」

とある。『大言海』には,

著しき色の義か,

とある。『古語辞典』には,

「しろし」の語幹,

とあり,「しろし」には,

「白し」
「著し」
「素し」

と,当てて区別している。しかし,この区別は,中国語の「白」「素」「著」を当てたところから来ているのであって,素人が言うのもなんだが,さかさまのように感じる。『古語辞典』には,「しるし」は別項に立て,

「著し」

として,

「しるし(徴・標)と同根。ありありと見え,聞え,また感じ取られて,他とまがう余地がない状態」

とある。「しるし(徴し・標し・銘し)」の項には,

「シルシ(著し)と同根。他の事と紛れることなく,すぐそれと見分けがつく形で表現する意」

とある。どうやら,「しろい」は,

他との差異が際立って「目につく」

という意味で,その場合,色のみを指していたのではなく,見分け,聞き分け,嗅ぎ分け等々の知覚の際立つことを指していたのに違いない。日本語の「きく」が,

聞く,
利く,
効く,

と,「利き酒」にも通じていることを思い出させる。「あか」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/429360431.html

「あを」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/429309638.html

で触れたおりに,

「一説に,古代日本では,固有の色名としては,アカ,クロ,シロ,アオがあるのみで,それは,明・暗・顕・漠を原義とするという。」

と書いたが,「あか」が明るいであり,「黒」が暗い,といった感覚を示していただけだということを思い出すと,われわれに,「色」という意識の言葉があったかどうかは疑わしい。むしろ,「白」「素」という言葉を知って,ひょっとすると色というものを意識したのではあるまいか。

漢字「白」は,象形文字で,

「どんぐり状の実を描いたもので,下の部分は実の台座,上半は,その実。柏科の木の実の白い中味を示す。柏(はく)の原字」

とある。「そうか,この明るさは,色というのか」と知ったということだろうか。

「素」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/434943171.html

で触れたが,「素」は,

「『垂(すい たれる)の略体+糸』で,ひとすじずつ離れて垂れた原糸」

で,「撚糸にする前のもとの線維」で,もととなるものという意味になる。で,漢字「素」は,「もと」という意味の本・元・原等々とは,区別されて使われる。

本は,末に対していい,後先をただしていう,
原は,水源の義より,根本を尋ねていう,
旧は,新の反,
故は,今に対して,以前はこうであった,という
素は,白き帛のこと,下地からの意,
基は,土台の意,

と区別する。「白い」色というよりは,

模様や染色する前の生地のまま,

を指す。それが,日本語の「素(す)」「素(そ)」と訓み分ける原因になっている。因みに,無罪の意味の「シロ」は,『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/12si/siro.htm

に,

「白とは無実、無罪、潔白を意味する。また無実の人のことも白という。白は警察の間で使われていたものが、ドラマや映画、その他メディアから一般にも普及。犯罪でなくてもイタズラや裏切り行為をしたかどうかといった程度のことにも使われるようになる。ちなみにこの白は日本語の潔白からきたのではなく、英語で無罪・潔白を意味するwhite(正確にはwhite hands)から、警察の間で使われるようになったといわれる。」

とある。まったく別の由来ということになる。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 04:42| Comment(0) | ことば | 更新情報をチェックする
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