2016年06月03日

すく


「すく」を辞書(『広辞苑』)でひくと,

助く,
透く(空く),
食く,
剥く,
梳く,
結く,
漉く(抄く),
鋤く,

と並ぶ。同義語でも,「好く」のようなものは区別がつくが,「すく」と言うだけでは,文脈抜きでは,意味が伝わらないに違いない。

梳く(髪をすく),

漉く(紙をすく),

は,辞書(『広辞苑』)には,「透く」と同源とある。『大言海』には,

「梳く」

は,

「透き通るようにする意か」

とあり,「漉く」は,

「水の透くようにする意か」

とあり,「結く(網をすく)」も,

「透くように結ぶ意か」

とある。さらに,「剥く」については,

「鋤くの語の意か」

とある(『大言海』には,「鋤く」は,「すくすくと突き入る意か」とある)。

さらに『古語辞典』には,

鋤き,
梳き,
漉き,

が,「透きと同根」とあり,しかも,「透き」は,

隙き,

とも当てられている。関係なさそうなのは,「食(喰)く」なのだが,これも,

食う,

という意ではなく,飲む,という意味で,

「薬を服するときのように,水などで口に流し込む」

という意味なので,「透く(空く)」という含意が,こじつければこじつけられる。

どうやら,「すく」の意の鍵になる語は,

透く,
空く,

らしいと見える。辞書(『広辞苑』)には,「透く(空く)」は,

①ものの間にあきが生ずる,

意として,それを,

隙間ができる,
欠けてまばらになる,
(「空」)内部のものが少なくなる,また,からになる,
肉が落ちる,
(「空」)つかえがなくなる,さっぱりする,

に分け,さらに,

②(「空」)時間的・精神的なすきが生ずる,

として,

仕事がなくなる,ひまになる,
油断する,手抜かりをする,

さらに,

③(「透」)ものの隙間から通る,

として,

光・風などが通り抜ける,
物を通して向こうのものが見える,

と,その意味の幅広さに驚かされる。どうやら,憶測だが,

「すく」

は,多様な意味に使われていたらしいのである。『語源辞典』では,「すく」は,

「ス(狭い空間がカラに近い状態)+ク(動詞化)」

で,何もない状態,間に物がないか,少ないかして,向こうが見える状態を意味する。それに,

透,
空,

の字を当て,さらに,

梳,
漉,
鋤,

の字を当てて,言葉の世界を膨らませていったということができる。と同時に,その言葉の開いた世界があるはずである。

「空」の字は,

「工の字は,つきぬく意を含む。『穴+音符工(コウ・クウ)』で,突き抜けて,穴が開き,中に何もないことを示す」

を意味し,「透」の字は,会意文字で,

「秀は,『禾(稻のほ)+乃(なよなよ)』から成る会意文字で,なよなよした穂がそれだけ抜け出たさま。透は『辶(すすむ)+秀(抜け出る)』で,それだけ抜け通る,透き通るの意」

とある。

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