2016年07月04日

たじろぐ


「たじろぐ」は,『類語新辞典』は,

辟易ろぐ,

と当てているが,『大言海』は,

逡巡,
退轉,

を当てている。『広辞苑』は,漢字を当てず,

「室町時代まではタジロクと清音」

と注記して(正確に表記すると,「タヂロク」になる),

尻込みする,ひるむ,辟易,
上達しない,劣る,
動き傾く,斜めになる,衰える,

という意味を載せる。「動き傾く」だけが異質だが,他の辞書では,

動揺する,傾く,

とあるので,辟易の意味の外延に入る。語源は,

「タジ(たじたじと)+ログ(動詞化)」

で,たじたじとして,しり込みする意味,ということになる。「たじたじ」は擬態語で,

足元が覚束ず,よろめくさま,よろよろ,
相手の気勢や力に圧倒されて,後ずさりするさま。ひるんでしりごみするさま,

という意味になる。『古語辞典』も,「たぢろき」の項で,

「タヂロは擬態語。タヂタヂのタヂと同根」

とする。「たじたじ」を動詞化している,ということになる。

http://yuraika.com/tajirogu/

も,『古語辞典』と同じ説を取っている。

しかし,『大言海』は,

「立ち動く意と云ふ。身じろぐ,目じろぐなどと同じ」

とあり,こうなると,ただ覚束なく,よろよろするというよりは,意志して,後ずさりする,ということになる。この説を取ると,擬態の,

たじたじ,

は,むしろ,「たじろぐ」を,擬態表現にした,ということになる。どちらもありうる,というのが言葉の面白いところかもしれない。

辟易,
逡巡,
退轉,

と当てたのは,当て字ということになる。因みに,

辟易

は,『由来・語源辞典』

http://yain.jp/i/%E8%BE%9F%E6%98%93%E3%81%99%E3%82%8B

「中国の『史記』(項羽本紀)に出てくる表現で、『辟』は避けるの意、『易』は変えるの意を表し、『辟易』の形で『道を避けて場所をかえる』が本来の意味。転じて、『相手を恐れ逃げる』の意を表した。日本でも逃げる、たじろぐの意で用いられていたが、相手に対して何もできない状態を表すところから、『閉口する』の意に転じた。」

とある。『史記-項羽本紀』には,

項王瞋目而叱之、
赤泉侯人馬倶驚、
辟易数里,

とある。囲みを破って逃れた項羽と項羽の兵は僅か28騎,対する赤泉侯・楊喜の兵は5千,項羽が追ってきた楊喜を睨み付け一喝すると、人馬ともに怖気付き,数里も逃げてしまった,という故事による。

「辟易」を「たじろぐ」に当ててみると,この故事から見れば,『大言海』の,

立ち動く意,

に軍配を上げたくなる。その場合,

ひるむ,

というより,

後ずさり,

という意味になろうか。「ひる(怯)む」の語源は,

「引き+緩む」の約,

で,気力がくじける,萎える,という意味になる。『大言海』は,

「痺(しび)る。手足萎えて行くこと能はず」

と,直截的である。

「後ずさり」は,「アトシサリ・アトジサリ」で,

後退り,

と当てるように,

「前を向いたまま後ろへ引き下がること」

である。やはり,意志なく萎えるというよりは,(気おされて)意志を持って下る,というのが,

たじろぐ,

にちかいという気がするが。

参考文献;
大野晋・浜西正人『角川類語新辞典』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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