2016年07月08日
及び腰
及び腰は,へっぴり腰とも言うが,『広辞苑』には,
腰を曲げ,手を伸ばして物を取ろうとする時の,不安定な姿勢。へっびり腰,
比喩的に,確信のないふらふらした状態,
とある。ある意味,
腰が引けている,
という状態である。腰のその状態を,メタファに,状態表現から,価値表現にシフトしている,ということになる。『大言海』は,
「追ひすがふ腰姿(こしつき)。膝にて立ち,中腰し,前に屈みながら,手を遠き物に及ぼさむとする貌なり」
とその状態を説明する。『語源辞典』は,
「『及び(手の届きそうな)+腰』です。物を取ろうとして手を伸ばし届きそうな不安定な腰つきをいいます。転じて,物事に自信がなく,消極的な心理状態を表すようになりました。」
とある。「腰」の関連で言うなら,
腰が定まらない,
腰がふらつく,
という意味になる。あるいは,
浮き腰,
弱腰,
となる。ただし,弱腰の反対は,
強腰,
で,「及び腰」の反対は,
本腰,
ということになるから,「及び腰」と「弱腰」は,向き合っているかどうかの差なのかもしれない。本腰は,
本格的に物事と取り組む姿勢,真剣な気が前,本式の腰構え,
とは真逆,向き合ってはいるが,覚悟が決まっていない,ということになる。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/o/oyobigoshi.html
は,
「及び腰の『及び』は、『達する』『届く』といった意味の動詞『及ぶ』の連用形。 離れたところ にある物を取ろうとする(届かせようとする)と、手足を伸ばして腰を浮かせた不安定な 姿勢になることから、そのような腰つきを『及び腰』といった。 元々は姿勢についてのみいった言葉だが,自信のないときに取る姿勢であることや不安定な状態の意味から,自信なさげな態度や心理状態についても『及び腰』と言うようになった。」
としている。『由来・語源辞典』
http://yain.jp/i/%E5%8F%8A%E3%81%B3%E8%85%B0
は,
「遠くにある物を取るときに、腰を曲げて手を伸ばした、宙に浮くような姿勢がいかにも不安定そうでふらふらしていることからのたとえ。もともとは、姿勢についてのみいった言葉だが、自信のない時にとる姿勢であることや、不安定な状態の意味から、自信なさげな態度や心理状態についても用いられるようになった。屁をふる腰つきから、『へっぴり腰』ともいう。」
として,「へっぴり腰」とも関連づけている。『語源辞典』は,「へっぴり腰」を,
「『屁+放る+腰』です。屁をひる時の不安定な腰つきの喩えです。身体を屈めふらふらした腰つきをいいます。」
とする。
「身体を屈めて後ろへ尻を突き出した腰つき」
を言っているだけだが,そこに,腰の引けた状態をメタファとして見た,ということになる。『大言海』は,ずばり,
放屁腰,
と当てている。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/he/heppirigoshi.html
は,
「へっぴり腰の『へっぴり』は、『へひり』の促音添加した語。『へひり』は『屁をひる(おならを する)』の意味で、漢字では『屁っ放り腰』と表記する。 恐る恐る高い所で作業したり、 自信なくバッターボックスに立つ時など、中腰で尻を後ろに突き出した不安定な姿勢,つまりおならをする時のような姿勢になることから『へっぴり腰』と言うようになった。そして自信がなかったり怯えている時,へっぴり腰になることから,自信のない態度やびくびくした態度もいうようになった。」
とする。思えば,「腰」は,身体の重要な部分で,それをメタファに,建物,建具,器物にまで,腰と名づけ,蕎麦やうどんの,
腰の力,
まで言うようになっている。多く,
構え,
や
姿勢,
のメタファとして,
腰を折る,
とか,
喧嘩腰,
等々と言ったりする。「こし」の語源は,三説あるらしい。
①「コ(凝)+シ(接尾語)」説で,力の凝り集まるところ,です。人体の骨盤の上あたりです。
②「コシ(層,くびれているところ)」説。
③「コシ(越し,食べたものが越えるところ)」説,
とのうち,『語源辞典』は,①をとっている。漢字「腰」は,
「要は,両手で脊柱を締めているさま。のち,下部が女の字となった。腰は『肉+音符要』で,細くしめるウエスト」
とある。『語源辞典』には,
「本来コシは要だったのですが,別意に使われたので,『月(肉体)+要』を使い,身体のカナメをさします。」
と補足する。それにしても,「要」は,
こし,ほそくしまったこし,
を意味し,そこから,「かなめ」とメタファとして使うようになった,とは漢字はよく意を尽くしている。
それにしても,腰にまつわる成語は少なくない。確かに,
腰が要,
に違いない。
飛び足,浮き足,かたく踏みつける足,
の三つを嫌う足と宮本武蔵は言っているが,それは腰の定まり方と関係があるに違いない。
「身のなり,顔はうつむかず,余りあふのかず,肩はささず,ひづまず,胸を出さずして,腹を出し,こしをかがめず,ひざをかためず,身を真向にして,はたばり広く見する物也」
と,兵法三十五条に書く。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
鎌田茂雄訳注『五輪書』(講談社学術文庫)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
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