2016年07月14日

あしからず


昨今,そうは使わなくなったかもしれないが,「あしからず」は,

悪しからず,

と当て,意味は,

相手の意向にそえないで申し訳ないという気持ちをあらわす語,悪く思わないでほしい,

と,『広辞苑』には載る。

悪しからずご了承願います,
とか,
出席できませんが,どうぞ悪しからず,

といった使い方をする,とある。語源は,

「悪しから(形容詞未然形)+ず(打消し)」

で,「悪く取らないでください,よろしく」の意と,『語源辞典』には載る。

http://people.ucalgary.ca/~xyang/kobun/3-3-1.htm

に,形容詞未然形とは,

「『未然』とは、『未だ発生していない』、『そのようになっていない』、という意味から付けられた名前である。」

が,ただし,

「形容詞の『ク活用』と『シク活用』には未然形を持たない。否定を表わす『ず』や推量を表わす『む』などの接続助詞に接続するには、『カリ活用」の『から」という活用形を用いる。」

「悪から」

とあるのは,「悪し」が,「シク活用」で,

未然 悪しから,
連用 悪しく,悪しかり,
終止 悪し,
連体 悪しき,悪しかる,
已然 悪しけれ,
命令 悪しかれ,

と活用する,未然形だからということになる。それにしても,

「悪し」

の意味は多様である。その意味のバラエティは,

https://kotobank.jp/word/%E6%82%AA%E3%81%97-424331

に譲るとして,「悪し」に対する注記がなかなか含蓄がある。『古語辞典』には,

「『よし』『よろし』の対。シク活用の形容詞は本来情意を表すものなので,アシはひどく不快である,嫌悪されるという感覚・情意を表現するのが本来の意味。多くの人人が不快の念をいだくような害がある意から凶・邪・悪の意を表した」

とあり,価値感というより不快の意味に近い,ということだろう。似た表現に,

「悪ろし」

があるが,『古語辞典』は,

「性質が良くない,過っている,悪質である意。平安女流文学では転じて,みっともない,劣っているという意を表すことが多い。」

とする。ここから来ているのか,『大辞林』は,

「『あし』は絶対的な評価として,『わろし』は相対的な評価として用いる」

としているが,「悪し」が情感を示し,「悪ろし」が「性質の是非」を言っているとすると,当たらずと言えど遠からず,なのかもしれない。『大辞林』が,「悪し」を,

「(「よし」に対して)物事のありさまがよくない。また、不快な感じをもつさま。」

とし,「悪ろし」を,

「他より劣っている、普通以下である、の意で、一定の水準以下であるさまを表す」

というのがわかりやすいのかもしれない。因みに,「悪し」の語源は,

「アラ(粗・荒)+シ」

である。「悪ろし」の語源は,

「悪いの古語。ヨロシに対するワロシです。よくない意。適当でない。上手でない。思わしくない。感心しない。」

ついでに,「よし」は,『古語辞典』に,

良し,
善し,
好し,
宜し,

と当て,

「『あし(悪)』『わろし(劣)』の対。吉凶・正邪・善悪・美醜・優劣などについて,一般的に,好感・満足を得る状態である意」

とする。「よろし」については,『古語辞典』は,

宜し,

を当て,

「形容詞ヨラシ(宜)の転。その方へなびき寄り近づきたい気持ちがする意。ヨシ(良)が積極的に良の判定を下しているのに対し,悪い感じではない,まあ適当,相当なものだ,一通りの水準に達している意」

とする。当たり前だが,「悪し」「悪ろし」と対になっているのがよくわかる。「よし」の語源は,

「ヨ(良好)+シ(形容詞化)」

で,「よろし」の語源は,

「寄ろ+シ」

で,「どちらかというと,こちらに寄りたい」意となる。

「悪しからず」は,そういう意味で,感覚・情意の面で,

「悪くない」

と言っているのだが,それを主体として表明しているのではなく,相手に仮託して,

「(相手が)悪いと感じませんように」

という含意だろうか。『大言海』は,

「よろしく」

という意味のみ載せる。

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%97%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%9A

には,

「あしく(悪あしの連用形)+あら(あるの未然形)+ず(打消の助動詞 連用形)」

と解釈している。これだと,

「悪い感情を持った状態になりませんように」

といった意味になる。このほうが,相手に託すにはわかりやすい。

http://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%82/%E6%82%AA%E3%81%97%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%9A%E3%81%A8%E3%81%AF%E4%BD%95%E3%81%8B/

に,

「悪しからずとは、気を悪くしないで、という意味で、『ご意向に添えかねますが、悪しからずご了承ください』などと用いる。つまり、相手が気を悪くするようなことをやったり、言ったりしたにもかかわらず、『気を悪くしないで受け入れてちょうだいね』とずうずうしく開き直るときに用いる言葉である。」

というのが名言である。『 新和英中辞典』での「あしからず」の英訳

I hope you will not take it amiss.

となっている。やはり,目上には,使いづらい。


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