2016年07月15日

横紙


横紙は,『広辞苑』に,

漉目を横にした紙,
守の漉目を横にして用いること,またそのときの紙,

という意味に過ぎないが,

横紙を破る,
とか
横紙破り,

という言い方をすると,同じく『広辞苑』には,

「(日本紙は縦に漉目があって横に裂くのは裂きにくいことから)慣習にはずれたことを無理にも行おうとすること,横車を押すこと,またそういう人」

とある。『大言海』は,

「竪簾(たてす)を用ゐて製する紙。文(あや),竪なり。之を横より裂くを,横紙を破るとて,非理を敢へてするに云ふ。横車を推す,と云ふも同意なり。」

と分かりやすい。「横車を押す」は,

横に車を押す,

とも言う。大体が,「横」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/422323173.html

や「よこしま」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/439853010.html

で触れたように,「よこ」については,

「縦を正,横を不正と見た日本人の言語意識」

があるらしく,「横」のつく言葉は,多く

横車,
だの,
横着,
だの
横死,
だの,
横道,
だの,
横言,
だの,

いい意味で使われないことが多い。繰り返しになるが,漢字の「横」は,

「黄(呉音おう・漢音こう)」が,火矢の形を描いたもので,上は,『廿+火(=光)』の略体,下は,中央にふくらみのある屋の形で,油をしみこませ,火をつけて飛ばす火矢。火矢の黄色い光,つまり,『黄』は,動物の脂脂肪(廿印)のついた火を描いた象形文字で,四方八方に発散する火矢の光,を表し,『横』は,『木+横』で,中心線からはみだして広がる横木,勝手に広がる意を含む,」

という意味で,和語「よこ」の語源は,二説あり,

ひとつは,「ヨコタフ」が語源で,体をヨコタエルのヨコ,
いまひとつは,「ヨ(寄)+コ(方向)」で,正面に対して,「寄る方向」がヨコ。不正な方向,ヨコシマのヨコ,

とある。この第二説が,横しまは,横様に通じる,と言えるが,どうも,直感的には,順逆がさかさまの気がする。「よこ」のもつ(当然でないという含意というか)意味から,横様が出たのではあるまいか。

もう一つの説は,『古語辞典』に,

「ヨキ(避き)と同根。平面の中心を,右または左に外したところ,またその方向の意。タテ(垂直)に対し,水平方向の意。転じて,意識的に中心点に当たらないようにする,真実・事実を避ける意から,『よこごと(中傷)』,『よこしま(邪悪)』等々,故意の不正の意に用いた。類義語『ワキ(脇)』は,中心となるものにぴったりと添ったところの意」

とあり,本来,タテ(正道)に対して,ヨコは,縦にするのを横に倒す,という喩えから,もともと正しくない,という意を含んでいたようだ。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/yo/yokogamiyaburi.html

は,「横紙破り」について,

「横紙破りの『紙』は『和紙』のこと。それを無理に破るようなものとたとえ、自分の思ったとおりを無理に押し通そうとすること を「横紙破り」と言うようになった。 車の心棒を『よこがみ(軸)』ということから、『横車を 押す』と同様の意味から生じた言葉で、『横紙』は当て字とする説もあるが考えがたい。」

とある。「横車を押す」は,上述のように,

横に車を押す,

ともいい,どう考えても無理なことを,無理押しする,という意はよく伝わる。横紙破りも,漉いた目に逆らう強引さを,喩えとして使っている。

横紙破り,

横車を押す,

は,確かに,

無理を通す,

というところでは似ているが,微妙に違う気がする。一つは,車と紙というスケールの差だが,横紙破りは,

決めたこと,
決め事,

に逆らって,おのれを通すという,へそ曲がり,というか,依怙地さがあるが,横車を押すは,どこかに,

突っ走る,
貫徹する,

というニュアンスがある気がする。それが,悪くすれば,無理どころか,

イチャもんつける,
言いがかりをつける,
難癖をつける,

となる。横紙破りには,そういうニュアンスはない。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)


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