2016年07月23日

極意


森俊夫『ブリーフセラピーの極意』を読む。

ブリーフセラピーの極意.jpg


昨年亡くなられた森先生の最後の著作である。黒沢先生の「森先生を偲んで」には,

「二年をかけて『極意』を書き切られました。それから,本書の第一校の著者校正を集中して終えられたのが2014年六月。森先生の軽妙な文体からは想像がしづらいことですが,一言一言,徹底的に吟味される方ですので,この段階で完成度はほぼ完璧でした。そして,第二校の校正の最中にご病気になられてしまいました。最期は『極意』を私たちに託し,2015年三月,本書の完成を見ることなく,旅立たれました。森先生の生き様そのものが究極のブリーフセラピストでした。」

とある。何度も何度も,そう数えれば,何十回と,研修やセミナー,吉祥寺でのKIDSの連続講習等々で,直接学ばせていただく機会があり,産業カウンセラー協会の最後のセミナーが中止になって,ご病気を知ったという御縁もあり,本書をつい手にした。

いつもあの独特の息継ぎの,癖のある喋り方を思い出しながら,読ませていただいた。

『極意』は,たぶん,『五輪書』に書かかれている,何気ない言葉が,実際にやってみると限りなく奥が深いように,そうそう簡単ではない。たとえば,著者が,エリクソンに触れて,

「心理療法とは,クライエントが持っていないものを与えることでも,持っているものを矯正することでもない。持っているにも関わらず,使われていないものを引きだすことである。」

という言葉を引用し,森先生は,「これ,極意」と書く。それと同じように,ソリューション・フォーカスト・アプローチの『極意』も,たとえば,

ものすごく基本的なこと(極意)四つ,

として,

ブリーフなかかわりをしようと思うこと,
ラポール形成を素早く,
面接(かかわり)は,明るく,楽しく,楽に,
これから(未来)のことに,明るい展望が持てる面接に,

を挙げる。言葉を換えて,僕流に言い換えると,

ブリーフをやろうとしないとブリーフはできない,
共通点や一致点を見つける気になれば見つかる,
喜びや楽しさ,安心感に焦点を当てれば,その部分が膨らんでいく,
自分に力があると思えれば未来が思い描ける,

ということになる。その「スタンス」を遂行していくには,練達のスキルがいる。しかし,森先生は,

「方法論なんて,なんだっていい。目指すところは何なのかというお話です。『あとはお好きにどうぞ』。あああ,話終っちゃった。」

と言われる。まるで,(本書で引用されている)エリクソンの,

「人は皆,一人一人ユニークな存在です。したがって,心理療法はそのユニークさに合わせて,一人一人に仕立てられるべきであって,人間行動に関する仮説理論という“プロクルステスのベッド”に寝かせて,人を切ったり伸ばしたりしてはいけません。」

「もし私が理論をつくるとしたら,患者一人一人に対してつくります。」

の言葉のようである。神業である。

でも,本書では,四つの「達成目標」に対する,「ブリーフセラピーの方法論の極意」も,ちゃんと教えてくれている。

ソリューション・フォーカスト・アプローチの解決志向,

つまり,

「『解決(より良き未来)』を手に入れること」

に役立つものは,

リソース(資源・資質),
解決像(良い未来像),
アクション(何かをすること),

であり,四つの基本にもかかわるが,

リソース,

こそがすべてである。リソースとは,

「ある個人の中にある力(能力)・興味や関心(好きなこと)・すでにやれていること(これらを『内的リソース』と呼ぶ),および,ある個人の周囲にあって,その個人を支える人々・生き物(ペットや植物など)・物(これらを『外的リソース』と呼ぶ)」

のことである。それは特別なものではない。

「やれている分だけをリソースと考えれば,さらにまだ実際にやれていなくても,その潜在能力はあるなと感じられるのであれば,それもリソースである」

として,森先生は,

「私の好む『リソース』の定義とは,『今,ここにあるもの』です。『ないもの』は『リソース』ではないですが,もし『ある』のだったら,その内容が何であれ,それは『リソース』です。」

と定義する。たとえば,「場面緘黙」(しゃべれるのに,ある状況下では何も言葉を発しない)ですら,

「すごい『能力』」

リソースと言い切る。その意味で,神田橋條治さんの,

「『問題』の言葉が浮かんだら,その下に『能力』という言葉を付けなさい」

という言葉を引用する。

問題もまたリソースである,

というのが,リソースに対する方法論でもある。

ソリューション・フォーカスト・アプローチでは,

ミラクル・クエスチョン,

が有名だが,これもまた,解決像をつくる方法である。そのバリエーションに,

どこでもドア

ドラえもんのポケット,

変身クエスチョン,

タイムマシン・クエスチョン,

という方法がある。定型ミラクル・クエスチョンとタイムマシン・クエスチョンの使い分けについて,

「判断基準の一つは,『問題』の存在がクライエントさんから明確に表明されているかどうかです。定型ミラクル・クエスチョンには『今日お話された問題が奇跡によってすべて解決したとすれば』という文言が入っていますので,クライエントさんがはっきりと『これが問題です』と語っていることが前提となります」

「一方現在の『問題』について,クライエントさんがはっきりと(あるいは,まったく)語っていない場合とか,すぐにこうしたいというよりも,将来のことに対する不安が話のテーマであったりする場合は,タイムマシン・クェスチョンのほうがいいでしょう。」

と書く。ここにも,練達の技がある。

「『ゴール』というのは,あくまで一歩踏み出せたときの『状態』」

であり,課題とは別とか,スケーリング・クェスチョンにおいて,0点だとしても,

「ええっ,0点の状況の中で,どうやって毎日やっているの?」

とコーピングクェスチョンで切り返したり,スケールの向きについて,

「学習障害(LD)のある子の中には,横軸スケールをイメージできない子がいる」

とか,些細ながら,練達の技の中で気づくことが,随所にちりばめられる。極意は,そうした積み上げの,

氷山,

でしかない。読み返すほどに,また,森先生の声とともに,いろんな発見がありそうである。

参考文献;
森俊夫『ブリーフセラピーの極意』(ほんの森出版)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm


posted by Toshi at 06:06| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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