2016年07月29日
うぬぼれ
「うぬぼれ」は,
自惚れ,
己惚れ,
と当てる。「うぬ」は,
「おの(己)の転」
で,「o→u」への母音交替の一例。たとえば,
あかとき(暁)→あかつき,
こは(蚕葉)→くわ(桑)
の如き,であるらしい。「うぬ」は,
汝,
己,
を当てる。自分自身を指すと同時に,
「相手を卑しめたいう」
つまり,「なんじ」の意味で使う,らしい。「うぬぼれ」は,
「自分自身に惚 (ほ) れる意」(『大辞泉』)
で,
自分で自分を(実際以上に)自分がすぐれていると思うこと,自負,
と『広辞苑』にはある。しかし,
自負,
と同義ではない,と僕は思う。「自負」は,
自恃,
つまり,「自らを恃む」ことであり,似ているが,
「自らの才能や仕事に自信や誇りを持つこと」(『広辞苑』)
が,自惚れになるかどうかの境目は,
謙虚さ,
あるいは,
謙譲,
であると思う。「自負」の語源は,中国由来で,
「自(じぶん)+負(たのむ)」
である。みずから自分を負うこと,であると思う。「うぬぼれ」の語源は,
「うぬ(己)+惚れ」
で,実際以上に自信を持ち,ひとりで得意になる意,とある。うぬぼれと自負との差は,負っているものの実態なのだろう。
うぬぼれ鏡,
という言葉があるそうである。
「《容貌が実際よりも美しく映るところからという》江戸時代、従来の和鏡に対して、ガラスに水銀を塗った懐中鏡。ビードロ鏡。」(『デジタル大辞泉』)
で,『広辞苑』には,
「(容貌を実際よりもよく見せる鏡,また,うぬぼれて絶えず見る鏡の意とも)江戸時代,それまでの和鏡に対し,ガラスに水銀を塗った洋鏡を指したとも,また一説に懐中鏡の一種で,人の居ない所でひとりで見,化粧をなおすのにもちいたりした故の名ともいう。」
とある。『江戸語大辞典』には,諸説あるが,
「用例に徴して,しばしば覗いて見るのを,うぬぼれて覗くといいなしたと解するのが最も穏当」
としている。
「うぬぼれ」の類語は,思上がり,心驕,慢心,自己過信,衒気,驕りと並ぶが,ある意味今日の,
自分褒め,
と重ならなくもない。それは,自画自賛であり,夜郎自大につながる。
相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ,
という諺があるらしいが,
「相惚れ=両思いの恋。自惚れ=ひとりよがりの恋。片惚れ=片思いの恋。 岡惚れ=ひそかな(憧れる)恋。」
と,「惚れる」にもいろいろあるらしいが,やはり,
うぬぼれ,
が一番格好悪い。
https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B8%E6%83%9A%E3%82%8C%E8%87%AA%E6%83%9A%E3%82%8C%E7%89%87%E6%83%9A%E3%82%8C%E5%B2%A1%E6%83%9A%E3%82%8C-897573
によると,
「人が何かまたは誰かを好きになるのは、それぞれ様々であること。『蓼(たで)食う虫も好き好き』とほぼ同義だが、四種類の惚れ方が羅列してあって楽しい。『岡惚れ』は隠れて他人の恋人などを好きになること。」
とある。因みに「岡惚れ」の「岡」は,
岡目八目,
の岡であり,『日本語の語源』には,
「他人のすることを脇から見ていることをホカミ(外見,他見)といったのが,オカミ・オカメ(傍見,岡目)になって,第三者の立場でものを見ることをいう。」
とある。
岡持ち,
は,ホカモチバコ(他持ち箱)の転らしい。だから,
傍惚れ,
とも当てる。俗に,
おかっぽれ,
というやつである。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
中村明『日本語語感の辞典』(岩波書店)
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください