半畳を入れる


「半畳を入れる」は,

半畳を打つ,
あるいは,
半畳を打ちこむ,
あるいは,
半畳を飛ばす,

という言い方もする。『広辞苑』には,「半畳」とは,

一畳の半分の畳,

とある。

起きて半畳寝て半畳,

で言う,半畳であるが,

江戸時代の歌舞伎で,見物人の敷いた小さい畳または茣蓙,

という意味もある。その場合,半畳も無いのだろう。

「半畳を入れる」

とは,『広辞苑』には,

「芝居で,役者に対する不満・反感を表すため,自分の敷いている半畳を舞台に投げうつ。芝居を見ていて,役者の演技を非難したり,からかったりする。転じて,他人の言動に対し非難・揶揄などの声を発する。弥次る。」

とある。「半畳を入れる」は,どうやら,

非難やからかいの掛け声・言葉を浴びせる,

つまり,「やじ」とセットらしい。「野次(弥次)」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/414455222.html

で触れた。「半畳を入れる」の語源は,上記で尽きているが,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ha/hanjyou.html

には,

「半畳は,江戸時代の芝居小屋で敷く畳半分ほどの茣蓙のこと。原罪の座席指定料のようなもので,昔の芝居小屋の客席は土間であったため,観客が入場料として半畳を買い,これを敷いて見物していた。役者の演技が気に入らないとヤジを飛ばし,この茣蓙を投げ入れたことから,『半畳を入れる』というようになった。」

とある。「畳」とか「茣蓙」とあるのは,正確には,『古語辞典』にある,

「半畳ほどの薄縁製の敷物」

というのが正確かもしれない。因みに,薄縁(うすべり)とは,

「裏をつけ,縁をつけた筵」(『『広辞苑』』)

「布の縁をつけたござ。薄縁畳。」(『大辞林』)

で,たとえば,

http://www.tatami-hamoto.com/sekourei/uwashiki/uwashiki.html

等々で,いまも売っているものだ。

うすべり.jpg


『日本大百科全書(ニッポニカ)』の解説に,

「縁をつけた茣蓙(ござ)(畳表に使う藺蓆(いむしろ))。模様を織り出した茣蓙を花茣蓙というが、これには縁をつけない。薄縁の先祖は平安時代の薄畳(うすじょう)である。薄畳は藺蓆の裏に薦(こも)を1枚重ねて縁をつけたもので、薦を2枚以上重ねると厚畳(あつじょう)になる。薄縁とよぶようになったのは室町時代ごろからのようである。」

とあり,由来がはっきりする。

『大言海』に,「はんでふ」の項に,

「半畳を打ち込むとは,批難する意」

とあり,後世は知らず,

咎める,
あるいは,
不満の意を表す,

意味で投げ込んだというのが正確だろう。『江戸語大辞典』には,

「半畳を入れる」

について,

「歌舞伎の芝居で,切落しの客が役者の芸に不満を感じたときこれを野次り,自分の敷いていた半畳を舞台に投げ込むこと」

と書く。で,転じて,

批難する,野次る,茶化す,

と載る。少しずつ,揶揄のほうへシフトしていったことを示している。因みに,「切落し」とは,『江戸語大辞典』には,

「平土間で,追込み席。最下級の観客席であるが,芝居好きや見巧者が入る。歌舞伎初期の舞台は,能舞台と同様,前方へ突出して,見物席は凹字型をなしていたのを,後に,その突出した部分を切り落として土間にしたのでこの名がある。天明期までは入口鼠木戸から舞台際までの平土間全体をいったが,ここに桝席ができてからは,後方本花道寄りの一隅のみになった。」

とある。『広辞苑』には,

「落間(おちま)ともいった。劇場の組織が変った後も,下等の大衆席をいう。大入場。追込場」

と,説明が加わる。「追込場」とは,

「人数を限らずに観客を詰め込む下等で安い席」

どある。『江戸語大辞典』には,

「一回平土間の最後方,表木戸の傍の場所,および二回向桟敷,曳舟の後方,いわゆるつんぼ桟敷。大入場,大向,一切見場,自由席。人数の制限をせずに入れ込むのでこの名がある。」

とある。「つんぼ(う)桟敷」という言葉は,今は使えないが,『広辞苑』には,

「役者のせりふがよく聞こえない観客席。見巧者(みごうしゃ)が多く集まるので役者には重視される『大向う』といわれる」

とある。なお,「鼠木戸」とは,「芝居・見世物などの興行場の表に設けられた,見物客の出入りする狭い格子戸口の称」

のことらしい。

http://www.konpirakabuki.jp/gakuya/guide02.html

にある写真で,鼠木戸のイメージがつく。

参考文献;
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
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