茶々を入れる
「茶々を入れる」は,
茶々を付ける,
茶にする,
等々とも言うが,
じゃまをする,水をさす,
という意味で,ただ,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/440621713.html
http://ppnetwork.seesaa.net/article/440387740.html
で触れた,「半畳を入れる」や「横槍を入れる」のと似ていて,しかし少し違うのは,
ひやかす,
ニュアンスがあることだ。語源は,
「『茶々を入れる』で,談話の間に茶を入れて妨害する,邪魔をする意」
とある。また,
http://yuraika.com/chachawoireru/
も同じく,
「茶を入れて一服することから,人がやっていることを中断し,水を差すという意味になった」
という説を取る。しかし,そうなのか,と僕は疑う。というのは,
茶
という言葉自体に,いわゆる「お茶」の意の他に,例えば『広辞苑』に,
いい加減なことを言うこと,からかうこと,ちゃかす,
という意味があることだ。それは,『古語辞典』でも,
「人を相手にするように見せて,内実は取り合わないこと」
という意味を載せ,
「相手に茶に言うて置きける」
という用例を載せる。つまり,「茶々」の「茶」は当て字で,何か他の意のものに,「茶」の字を当てたのではないか。
「茶」の字は,
「もと『艸+音符余(のばす,くつろぐ)』。舒(くつろぐ)と同系で,もと緊張を解いてからだをのばす効果のある植物。味はほろ苦いことから,苦茶(くと)ともいった。のち,一画を減らして茶とかくようになった。」
とあり,この字に,からかう含意はない。『古語辞典』には,
ちゃり
という動詞が載る(『広辞苑』では「茶利」と当てる)。
ふざける,
という意味だが,その名詞は,
滑稽な文句または動作,ふざけた言動,おどけ,
という意味が載る。どちらが先かはわからないが,あわせて,
(人形浄瑠璃や歌舞伎で)滑稽な段や場面,また滑稽な語り方や演技,
という意味が載る。歌舞伎や人形浄瑠璃から出て,「ちゃり」がふざける意になったのか,ふざける意の「ちゃり」を,浄瑠璃などで転用したのかは,ここからはわからない。『大言海』は,
「戯(ざれ)の転」
として,
洒落,おどけ口,諧謔,又おどけたる文句,
という意味を載せる。しかし,『江戸語大辞典』は,
操り・浄瑠璃用語。滑稽,道化,
と載る。どちらが先かは,つかめない。
茶利語り,
茶利声,
は,そういう滑稽な語り口や声を指す。なにはともあれ,ともかく,「茶」には,
ふざける,
含意がつきまとうらしい。『江戸語大辞典』は,「茶」の項に,
遊里用語,交合,
人の言うことをはぐらかすこと,
ばかばかしい,
という意味が載り,それを使った,
茶に受ける(冗談事として応対する),
茶に掛かる(半ばふざけている),
茶に為る(相手のいうことをはぐらかす,愚弄する),
茶に成る(軽んずる,馬鹿を見る),
茶を言う(いい加減なことを言う)
等々という使われ方を載せていて,
ちゃかす(茶化す),
はその流れにある。
茶化すは,
「茶にする」
と同じで,語源は,
「『チャル(戯る・ふざける)+カス(接尾語,他に及ぼす)』です。」
とされる。
ちゃらかす,
とも言う。『江戸語大辞典』には,「茶る」という項が載り,
「茶の動詞化」
として,
おどける,ふざける,
の意味が載る。どうも「ちゃり」も「茶る」も,
「茶」
に込められた含意から来ている。あるいは,「ちゃる」に「茶」の字を当て,「茶」自体にそういう含意が込められるようになったのか,やはり,この前後はよくわからない。
因みに,
無茶,
と当てる「むちゃ」は,「茶」とは関係なく,
「ムタイ(無体)が語尾を落としたムタは『タ』の拗音化でムチャ(無茶)となった」
もので,「滅茶」は,
「ムチャ(無茶)は,『ム』の母交(ue)でメチャ(滅茶)になった」
もの。さらに,
「メチャ(滅茶)はメッタ(滅多)に転音して『滅多打ち・滅多切り・滅多やたら』」
というようになった。また,無茶苦茶は,
「ムドウゴクドウ(無道極道)の転音のムタイコクタイ(無体極体)は,これを早口で発音すると,ムタクタ・ムチャクチャ(無茶苦茶)・メチャクチャ(滅茶苦茶)に転音」
したもので,「茶」は完全に当て字。
参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
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