2016年08月13日

類比


井上寿一『第一次世界大戦と日本 』を読む。

第一次世界大戦と日本.jpg


本書は,第一次世界大戦(1914~1918)をはさんで,関東大震災(1923)後までの大正時代(1912~1926)を中心に,

外交,
軍事,
政治,
経済,
社会,
文化,

を輪切りに,大正時代という,日本史の中では,比較的影の薄い時代の雰囲気を伝える。しかし,この時代,

国際連盟設立メンバーとして,常任理事国として,国際舞台で西欧列強に伍し,

人種平等事項の実現をはかろうとし,

他方,国内では,

政友会,憲政会の二大政党制の時代であり,

普通選挙法(1925年,男子のみだが)成立するが,

大戦景気の反動の不況がつづき,昭和の金融恐慌の兆しの中,貧富の格差が拡大し,

その最中,関東大震災が起きる。そして,

安田善次郎,原敬がテロに倒れる,

という,テロとクーデターの昭和を予兆させる出来事が頻発してもいた。

著者は,「大正時代と今との間に時代状況の類似点がある」と,類似点を三点挙げる。

第一は,「大衆社会状況下の格差の問題である。第一次世界大戦とその後の関東大震災(1923〈大正一二〉年)は,日本社会に平等と共同の意識をもたらす。しかしそれも長くは続かなかった。大震災直後の昂奮は弛緩が取って代わる。日本は社会的な格差の問題の過酷な現実に直面する。」

今日,日本の総資産の41%を上位10%の人が独占し,他方六人に1人の子供が貧困にあえぐ。大正時代にも,それが目立ち,

「誰もが『細民』生活に転落するおそれがある。そのような危機が日本全国に広がっていた。」

との本書の記述は,「細民」をホームレスと置き換えれば,そのままこんにちの現状を指摘していると言ってもいい。

第二は,「長期の経済停滞です。第一の社会的な格差の問題は経済停滞に起因している。第一次大戦後の戦争景気は長続きしなかった。戦後の反動不況が深刻化する。大正時代は,バブル経済崩壊後の『失われた二〇年』の今日と共通するような経済停滞が長期化していた。」

今日,「失われた二〇年」は「失われた三〇年」となりつつある。

IMF(国際通貨基金)が公表したGDP推移見込みでは,

GDP推移.jpg


バブル崩壊があった1990年代初頭からIMF予測の最終年2019年まで30年間、日本のGDPは5兆ドル前後に張り付いたまま,となる。一人当たりGDPにいたっては,26位,惨憺たる状態である。

第三は,「政党政治システムの模索である。この世界大戦前の第一次憲政擁護運動から始まり,大戦後の第二次憲政擁護運動に終る大正時代の日本は,戦前昭和の二大政党制の確立に至る政党政治システムを模索していた。」

とあり,民主党と自民党の政権交代は,「本格的な複数政党制への過渡期」として,当時と今の同時代性を感じさせる,と著者は言う。

「二大政党制が短期間に崩壊したのは,大正時代にあらかじめ準備されていたかのよう」な,いわゆる,

茶番劇,

と言いたげである。大正時代と平成時代のシンクロは,ネット上で,

1923年 関東大震災
1925年 治安維持法
1940年 東京オリンピック
1941年 太平洋戦争

2011年 東日本大震災
2013年 秘密保護法
2020年 東京オリンピック
2021年 ?

と,対照されていたような,不気味なシンクロを感じさせる。

日本は,1930(昭和五)年,ロンドン軍縮条約を,「米英と信頼関係のなかで調印をめざし」調印する。しかし,翌年,満州事変を起こし,国際連盟は,対日非難勧告を,四二対一で採択,日本は,連盟を脱退する道を選ぶ。

今日,財界人の一人が,

「戦争でも起きないと日本経済も立ちゆかなくなってきますなあ」

といい,武器輸出を解禁し始めている。公然と,「支那を叩く」などということを公言する政治家までいる。

本書は,こう締めくくられている。

「東京オリンピックは戦局の悪化を理由に返上された。他方で1940年の日本は紀元2600年記念行事で沸いた。何百万もの人々が汽車やバス,飛行機さえ使って,皇室関連史跡観光に訪れた。植民地観光も盛況だった。大衆消費文化を背景に,帝国観光で日本はにぎわっていた。真珠湾攻撃の前年のことだった。」

参考文献;
井上寿一『第一次世界大戦と日本 』(講談社現代新書)
http://blogos.com/article/104198/

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:03| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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