2016年08月18日

数寄


「数寄」あるいは「数奇」は,

「好き」の当て字,

である。『大言海』には,

「数奇(すうき)と混ずるを恐れて,寄の字になす」

とあるので,もとは,「数奇」だったのかもしれない。ちなみに,「数奇(すうき)」は,

「『数』は運命,『奇』はくいちがう意」

とあり,不遇という意の他に,「数奇な運命」というように,

境遇の変化が激しいこと,

の意で使う。

話を元へ戻すと,「数寄」について,『広辞苑』には,

「特に茶の湯などを好むこと」

とあるが,少し意味が限定されすぎているのではないか。確かに,

「茶の湯を意味する言葉。平安時代には,〈好く〉の連用形である〈好き〉は色好み,あるいは風流文雅を好むこと,の意味であった。鎌倉時代に入ると,色好みとは区別して〈数寄〉という文字が使われるようになったが,それはもっぱら歌道の風流を意味する語として用いられていた。数寄が茶の湯を対象とするようになったことを示す早い例は,歌論集《正徹物語》(1444‐52ころ成立)であり,歌数寄に対して〈茶数寄〉という語が用いられている。」(『世界大百科事典 第2版』)

という説明もあるが,中世末の『日葡辞典』には,

「ある事柄に心を寄せる」

という意味を載せているし,『大言海』も,「数寄」と「数奇」の由来を,

「下學集,下,言辞門『数奇,辟愛之義也』,節用集『茶數奇』,慶長節用集『數奇』,正保慶安節用集『數寄』,難波江,五,上『孝(岡本保孝)云,下學集より,慶長十六年の節用集までは,奇僻の奇の字を書き,正保三年の節用集より,今日までは,寄附の寄の字を書く,いかなる事にか,云々,抑スキと云ふ詞は,数奇の字音にあらぬこと,云ふも更なり,史記李廣伝に,數奇の字面あれど,ここに由あることにあらず,只,スキと云ふ詞を,數奇と書けるまでの假字なり。字義を採るにあらず,スキと云ふは,物に執着すること,其の事に偏(かたよ)る事にて,好色の事のみにあらず,歌にも,絵にも,仏事にも,何にも云へば,茶の道に限らぬことも,推して知るべし。物語文などに,好色の事に,多く用ふるは,人人の好み,さまざまにあるが中に,好色は,おし渡してあるものなれば,おのづから,所所に多く見ゆるなり。枕草子に,みかどの,女御に,古今集の歌,試給ふ所,又,大臣の誦経せさせ給ふ所に,スキズキシとあるは,歌と仏事となり。源氏物語の繪合せの巻に,スキズキシと云ふは繪なり。同物語の松風の巻なるは,風流の事に云ふにて,好色の事にあらず。鴨長明が發心集,六の巻なる,永秀法師のスキは,横笛の事なり。又,源氏物語の若紫の巻に,嗄れたる聲の,いといたうスキ僻めるも,あはれにとあるは,世の人には,物遠く,頑なに偏(かたよ)りて,打僻めるを云ふ也けり。老人の歯落ちて,聲のスクと云ふ説は,取るに足らず』」

と,引用している。ついでに,

「器用を地盤として,数奇を第一とすべし。器用と,稽古と,スキと,三つのうち,スキこそ物の上手なりけり」

と,『紀逸雑話』を引用している。これは,『論語』の,

「これを知る者はこれを好む者に如かず,これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」

を思わせる。

もうひとつ,数寄者についての,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%B0%E5%AF%84%E8%80%85

での記事にも,

「『数寄』とは本来『好き』の意味であり、特殊な当て字として流布している。専門業とはせずに何らかの芸事に打ち込む様を、特に『すき』と称しているのであり、現代の俗語としては『あんたもすきね』『ものずき』などに通じる。
古くは『すきもの』とは和歌を作ることに執心な人物を指した様であるが、室町時代には連歌が流行し、特に『数寄』が連歌を指すようになったとされる。
さらに桃山時代には富裕な町衆の間で茶の湯が流行し、『数寄』も連歌から茶の湯へと意味を変えている。このため江戸時代には、数寄のための家『数寄屋』も茶室の別称として定着する。」

と,簡にして要をえた説明をしている。要は,「数寄」とは,

「好きだなあ」

と,傍の人が言っている意味だと考えていい。

数寄を凝らす,

も,広く,

風流の意匠を尽くす,

という意味になるが,ようするに,凝っているのである。「好き」は,語源的には,

「心を寄せる」

という意らしいが,『古語辞典』を見ると,

気に入ったものに対してひたすら心が走る,一途になる,

という意味が最初に載る。それが,恋や趣味・芸道に流用されたのではないか。『江戸語大辞典』になると,

好きな事,
勝手,

という意味にシフトしていて,

好きに為る,

と,今でも使うことばが使われるようになる。「すき」に「好」の字を当てるが,この字は,

「『女+子(こども)』で,女性が子供を大切に庇ってかわいがるさまを示す。大事にかわいがる意を含む。このむ(動詞)は去声,よい(形容詞)は上声に読む」

とあり,「すき」にこの字を当てたのはなかなか含意が深い。

「つう」について,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/437747411.html

で触れたように,必ずしも,褒めているとは限らない。周囲の貼るレッテルである。あるいは,

数寄,
あるいは
数寄者,

も,

数寄に赤烏帽子,

のように,多少揶揄するように,「数寄」と名づけたのかもしれない。自称する数寄者にはろくなものがいない気がする。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)


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