2016年08月20日

性懲り


「性懲り」は,

しょうこり,

と訓み,

心底から本当に悔いること,

と,『広辞苑』には意味が載る。多く,

性懲りもない,

という使い方をする。

幾度こらしめられても,こりることがない同じ過ちを繰り返しても一向に改めない,

という意味である。「性懲り」には,『デジタル大辞泉』は,さらに,

懲り懲りすること,

とも載せる。「懲り懲りする」とは,

ひどく懲りること,

だが,『デジタル大辞泉』『大辞林 第三版』には,

「古くは『こりこり』とも」

として,形容動詞として,

すっかり懲りて嫌になるさま。ひどく懲りて,二度と同じことはしたくない気持ちを表す語,

と,「二日酔いはもう懲り懲りだ」という使い方と,副詞として,

(多く「こりごりする」の形で)ひどく懲りて二度としたくないさま,

を載せる。「懲りる」は,

ひどい目に会って,二度とすまいと思う,

という意味だが,語源は,

「コ(懲)+ルの上一段化」

とある。万葉集(三八四)の,

「こりずてまたも蒔(ま)かむとそ思ふ」

という用例を載せるものもあり,古くから使われていたものらしい。『大辞林 第三版』には,

みこる(見懲る),

という言葉が載っていて,

見てこりる,

という意味らしく,

「男ども見懲りて,おぢわななき,え車につかず」

と,『落窪 』から用例をもってきている。

「懲りる」の「懲」の字は,

「徴(ちょう)は,『微(すこし)の略体+王』の会意文字で,少し頭をだしたとたんに,その才人を召出すこと。懲は『心+音符徴』で,少し頭をのぞかせた悪事をとらえて制裁を加えること」

で,

こらしめる。表面に洗彫れた悪事のきざしを抑えて将来を戒める,

こりる。頭を出したとたんいためつけられてこりごりする,

と,受動と発動の二つの意味がある。「こる」に「懲」をあてて,

懲りる,

懲らす,

の二つの意味が,ダブる。「性」の字は,「セイ」だが,漢音では,「ショウ」,呉音はxing。

「生は,『若芽の形+土』で,芽が地上に生え出るさま。生き生きとして新しい意を含む。性は『心+音符生』で,うまれつきの澄み切った心のこと」

とある。「性」の意味は,

生まれつき持っている心の働きの特徴,
であり,
さが,ひととなり,人や物に備わる本質,

といった意味になる。和語には,こういう文脈を離れた抽象度の高い言葉はないので,

さが,

という言葉も,由来は,

「中国音sangに,母韻aが加わったもの」

で,『大言海』は,

「然(しか)の転にて,(其髪(しがかみ),さがみ,倒(さかさま),さかしま,手節(てぶし),たぶさ)然(しか)あるものの意にもあらむか。古事記,上三,『女人先言不良』の條に,古事記伝『性を佐賀と訓めり云々』,自然に然あることを云ふ言なり」

とあり,本来の意味よりも,

もってうまれた性質や宿命,

ならわし,くせ,

前兆,きざし(「成立の意より転じて本性の意」),

と,

「こころよからぬ性質(さが)故に,あなたを苦界に沈むる巧計(たくらみ)」

という用例に見るように,あまりいい「うまれつき」ではないニュアンスが出ている。『古語辞典』には,

「生(なま)のままに性質や運命を,人間の力ではどうにもできないものととらえていう語。多くよくない性質について使う。」

と言い切り,

どうにもならない性質,
人力ではどうにもならない本性,
悪い性質,

という意味のみ載せる。「性」の字の意味が変わったのだ。しかし,「性(せい・しゃう)」と訓ませると,

本性,
性質,

あるいは,

たち,性分,

と,少しニュートラルに戻る気がする。こんにちでは,性別の含意が濃くなる。その意味で,

性懲りもない,

で使う,「性」は,かつて「しゃう」と訓んでいたものが,今風に,「しょう」になったのではないか。とすると,その「性」は,「さが」の方ではない,本性,つまり,字義通り,

おのれの性根から,

という意味なのだろう。しかし,この語は,今日,死語である。われわれは,「せい」ではない「さが」が際立つようになったのだから。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
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posted by Toshi at 04:35| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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