2016年08月24日

ホールシステム・アプローチ


マーヴィン ワイスボード&サンドラ・ジャノフ『会議のリーダーが知っておくべき10の原則――ホールシステム・アプローチで組織が変わる』を読む。

会議のリーダーが知っておくべき10の原則.jpg


著者たちは,ホールシステム・アプローチと呼ばれる組織開発の手法のひとつフューチャーサーチの提唱者にして,実践者・普及者である,とこの本の監訳者,金井壽宏氏は,言う。実は,この本は,監訳者の持ち込み企画らしい。それだけ金井氏が,内容に入れ込んでいるものらしい。

フューチャーサーチについては,著者らの『フューチャーサーチ』を,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163468.html

で,取り上げた。

「本書は,会議についてのありがちな本とはまったく違う。これは読者のみなさんが会議をひらくたびに着実にリーダーシップを発揮できるようになるのを手助けする本なのだ。そのための手段として,私たちは一般によいとされる方法のほとんどを根底から覆す。人間同士の交流という難しい問題について万事心得ておかなければという重圧を逃れる手助けもしたいと思っている。」

本書は,冒頭こう始まる。たしかに,原題は,

Don’t Just Do Something,Stand There

で,サブタイトルは,

Ten Principles for leading Meetings That Matter

なのである。金井氏は,

「とにかくしゃしゃり出ないで,どんと構えて立て―大切な会議をリードする10の原則」

と訳し,その象徴として,現著の表紙には,イヌクシュクが使われている,という。

イヌクシュク.jpg


「表紙にあしらった石のオブジェ…は,本書の柱となる内容を象徴している。このオブジェを,高緯度北極に暮らすイヌイットはイヌクシュクと呼んでいる。数世紀の昔から,イヌイットはこれを,不毛の凍土を進むときの道しるべとして使ってきた。」

と,著者は書くが,金井氏は,

「『どんと構える』とは具体的には,『会議の参加者がすべきことをやってくれているときには,目に見えるような行動は何もしないということ』を指している。」

と解く。

本書のいう会議とは,

「目的が明確で,じかに会って対話がなされる会議である。…その会議とは,さまざまな人が集まって,問題を解決し,意思決定をし,計画を実行に移す会議のことなのだ。それは集まった人たちが,積極的に参加し,自分の意見を聞いてもらい,影響を及ぼすことを期待できる会議,ひとことで言えば意義ある会議のことだ。そして,進行の仕方がまずければ,皮肉と無関心ばかりが生まれることになる。」

であり,本書は,

「どんな会議でも価値あるものにできる」

をテーマに,

「リードする会議を通して,あなたが世界にもっとも影響を及ぼせるようになるのを手助けする」

ことを目的に,

会議を運営する人,

向けに書かれている。そのために,

「出席者の行動を管理するのではなく,構造,すなわち人々が話し合いをする状況を管理する」

ことを目指し,そのために,

「自分たち自身を変えること」

を真っ先に始めた,という。その目指すのは,

「ただそこに立っていられるようになる」

こと,つまり,これが,イヌクシュクが本書の象徴である所以なのである。

「すべてに答を出したり,グループそれぞれに抱える問題の障害物を片付けたり,全出席者を常に満足させたりする必要がある,と思うことをやめた。私たちのやり方は,注意深く『ただそこに立っている』ものとなった。それは観察すること,耳をすませること,そして人々に対して彼らみずから選ぶもの以外のいかなる態度も促すことなく,彼等の心の内にあることを話すよう導くことである。」

本書は,

会議をリードする六の原則,

自分をマネジメントする四の原則,

で成り立つ。原則をそのまま書き出しても意味はないが。前者は,

①ホールシステムを集める,
②コントロールできることをコントロールし,できないことは手放す,
③全体“象”を探求する,
④人々に責任を持ってもらう,
⑤コモングラウンドを見つける,
⑥サブグルーピングを究める,

後者は,

⑦不安と仲良くなる,
⑧投影に慣れる,
⑨頼できる権威者になる,
⑩Yesを異議深いものにしたいなら,Noと言えるようになる,

である。最後にある「六つのテクニック」が,なかなか含蓄がある。

①全体の感じをすばやくつかむために,人々の間を歩いて,それぞれの立場をはなしてもらう(「分化」)
②グループがばらばらにならなしいようにするために,孤立しそうな人が出てきたら,「ほかにいませんか」と尋ねて支持者を見つける(原則⑥)
③二極対立を阻止するために,衝突したりダイアローグするなかで,人々がサブグループを意識するのを手伝う(原則④)
④独創的なアイデアやより幅広い参加を促すために,なんらかのテーマについて少人数のグループで話し合い,その後どんな話をしたか全体に報告してもらう。「近くにいる人と(あるいは三人/四人で)〇〇分話をして,どんな考えをもっているか確かめてください」。(原則④)
⑤次に何をしたらいいかわからなくなったら,グループの人たちに意見を求めよう。どうすべきか知っている人は必ずいる(原則⑦)
⑥進展が見込めないと人々が思う場合は,会議を終了することを提案する。「話し合いを続ける必要はないと思います。このまま話し合いを続ける価値があると思うかどうか,みなさん一人ひとりの意見を聴かせてください」(原則⑦)

個人的には,

ほかに誰かいませんか,

という問いは,新鮮だし,「混乱している」とか「不満だ」とか「時間の無駄」とか,参加者から出た声を,

「ほか誰か時間の無駄(混乱している,不満だ)と思う人はいませんか,

と,

ダイアローグの一部として受け入れる,

という考え方である。そして,

「『ほかに誰かいませんか』と尋ねてからたっぷり20秒くらい待つ。永遠よりも長く思えるその時間をまってなお何の返答もないと,緊張が生まれ,私たちはみずからの経験をもとに正直な感想を述べることになる。
 リーダー:実は私も,今日のミーティングは時間の無駄だと何度も感じています。
 みずからをサブグループにいれなかったらどうするか。つまりその会議が,私から見て素晴らしいものである場合だ。
 リーダー:現時点では,あなた一人のようですね。先へ進んでいいですか。」

参考文献;
マーヴィン ワイスボード&サンドラ・ジャノフ『会議のリーダーが知っておくべき10の原則――ホールシステム・アプローチで組織が変わる』(英治出版)
マーヴィン・ワイスボード&サンドラ・シャノス『フューチャーサーチ』(ヒューマンバリュー)


ホームページ;
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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:28| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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