2016年09月08日

義理


別に義理という言葉に興味があったわけではないが,三田村鳶魚が,

武士道とは義理である,

と書いていた。で,少し調べてみる気になった。『広辞苑』には,

物事の正しい筋道,道理,
分け,意味,
(儒教で説く)人の踏み行くべき正しい道,
特に江戸時代以降,人が他に対し,交際上のいろいろな関係から,いやでも務めなければならない行為や物事,対面,面目,情誼,
血族でないものが血族と同じ関係を結ぶこと,

とある。他の辞書には,

つきあい上しかたなしにする行為(『大辞泉』)

対人関係や社会関係の中で,守るべき道理として意識されたもの。道義(『大辞林』)

といった意味が加わったりする。『江戸語大辞典』には,人との交際云々の他に,

祝の贈り物,祝儀,

と出ていて,まさに,

「交際上のいろいろな関係から,いやでも務めなければならない行為や物事」

の象徴である。で,

義理と下帯は外されぬ,
義理と褌は欠かされぬ,
義理ほどつらいものは無し,

等々とことわざが並ぶ。想像がつくが,義理は,中国語由来であり,『語源辞典』には,

「『義(我を美しくする)+理(すじみち)』です。人のふみ行うべき正しい道が本義です。日本語では,とうぜんしなければならないつきあいを言います。」

とある。『大言海』が,

義の理,

と書くのが,本来の意味なのだろう。

義の字は,

「我は,ぎざぎざになった戈(ほこ)をえがいたものか,峨(ぎざぎざと切り立った山)と同系。『われ』の意味に用いるのは,我(が)の音を借りて代名詞を著わした仮借。義は,『羊(かたちのよいひつじ)+音符我』で,もと,かどめがたってかっこうのよいこと。きちんとしてかっこうのよいと認められるやり方を義(宜)という」

とある。前にも触れたが,『孟子』に,

惻隠の心は,仁の端(はじめ)なり,善悪の心は,義の端なり,辞譲の心は礼の端なり,是非の心は,智の端なり」

とある。「義」に,「義理立て」の意味はそぐわない。

「里は,『田+土』からなり,すじめを付けた土地。理は『玉+音符里』で,宝石の表面に透けて見えるすじめ。」

である。だから,「義理」は,善悪の心の道筋,という意味に過ぎない。

もともと,日本でも,

「古くは,物事の正しい筋道の意で,《今昔物語集》や《愚管抄》にその用例が見える。また,文章やことばの〈意味〉という使われ方もあった。中世末期の《日葡辞書》には,すでに,〈良い道理〉とともに〈礼儀正しさ,律義さ〉という意味があげられているが,この言葉が,対人関係上,守り実践しなければならない道義をさすものとして特に重んじられるようになるのは,近世社会においてである。近世初めの儒者林羅山は,〈人ノ心ノ公平正大ニシテ,毛ノサキホドモ人欲ノ私ヲマジヘズシテ,義理ヲ義トスルハ,義ゾ〉(《春鑑抄》)といい,〈義理〉を儒教の〈義〉と結びつけ,世俗的な人間関係における絶対的な道義とした。」(『世界大百科事典 第2版』)

とあり,それが,「義理を欠く」という意味に変って,

「村社会における相互関係を維持するために定められた行為。この義理を欠く者は,村八分という制裁を受けることもあった。親戚の間で果されるものと,村社会に対して果さなければならないものとに大別される。」(『ブリタニカ国際大百科事典』)

ということになる。ほぼ,個人から見れば,しがらみ,と同じである。

「しがらみ」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/428799095.html

で触れたが,

水をせき止める柵を指していたはずが,身を束縛するものに転じた,ということになる。どうも,

水をせき止めるために,杭を打ち,それに,竹や木の枝を絡ませる,

絡みつく,数多く絡ませる,

かかわりあいをもつ,

身を縛る,

といった変化で,柵として,外に見ていた絡み合いが,メタファになって,絡まる意味になり,それが内へと転じて,自身がその柵に絡み取られ,身を縛るというメタファになった,という,しがらみは,本来,そういう圧力を支えてくれるはずの柵であったはずなのに,いつの間にか,おのれを縛り,拘束する足枷,というが拘束衣に変ってしまったように,義理も主体的な身の処し方であっはずが,身を縛るものに変ってしまったようだ。武士道の義理は,どちらの意味だろうか。

「利欲にかられず筋道をたてる」

意が,日本では,主君への義理立て,の意として使われ,それを正義,義士,とするところからすると,おのずと答えは出ている。新渡戸稲造の言う,

封建時代の武士は(封建)社会全体への義務を負う存在として己を認識していた,

とは,タテマエではあるまいか。

参考文献;
三田村鳶魚『武家の生活』 [Kindle版]
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
小林勝人訳注『孟子』(岩波文庫)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
ラベル:義理 三田村鳶魚
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posted by Toshi at 04:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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