2016年09月09日
なまじっか
「なまじっか」は,
憖(じ)っか,
と当て,『広辞苑』には,
「なまじ」に同じ,
とあり,「なまじ」を引くと,
ナマジイの約,主に副詞として用いる,
と載る。「なまじい(ひ)」を引くと,
「『生強い』の意,清音にも」
とあって,意味は,
できそうもないことを無理につとめるさま,
すべきでない,またはしなくてもいいことをするさま,
深く心をもちいないさま,うかつ,かりそめ,
とある。
やらなくていいこと,やれもしないことを無理してやる,
というニュアンスと,
注意を払わない,
という,「うかつ」や,
その場かぎりの間に合わせであること,
という「かりそめ」とは随分意味の幅がある。『大言海』は,
「(生強い(なましひ)の義と云ふ)熟せぬを強いて,心に欲せぬを自ら強いて」
「よせばよいのに,せずともよきに」
の意味しか載らない。『語源辞典』には,
「『生(中途半端)+強い(しいる)』です。気が進まないのに,中途半端に無理につとめる意です。むしろ,しなくてもいいのに,等々の用法です。」
とある。『古語辞典』も,
「ナマは中途半端の意。シヒは気持ちの進みや事の進行,物事の道理に逆らう力を加える意。近世の初期まで,ナマジヒ・ナマシヒの両形あった。近世ではナマジとも。」
とある。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/na/namajikka.html
も,
「中途半端の意味を表す副詞『なま(生)』に、動詞『しいる(強いる)』の連用形が付いて『なまじい』になった。 古くは『なましい』と清音の形も見られる。『なまじい』が『なまじ』や『なまじか』となり、『なまじか』が促音化されて『なまじっか』が生じた。「なまじっか(なまじ)」の『か』は、『おごそか』や『はなやか』など形容動詞に用いられる『か』であろう。」
とある。やはりどう考えても,
意に反して,
とか,
通例に反して,
とか,
いやいや,
というのが含意である。
http://www.fleapedia.com/%E4%BA%94%E5%8D%81%E9%9F%B3%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/%E3%81%AA/%E3%81%AA%E3%81%BE%E3%81%98%E3%81%A3%E3%81%8B-%E3%81%A8%E3%81%AF-%E6%84%8F%E5%91%B3/
のいう,
「『生強い』つまり未熟(生)なのに無理にことを行う(強い)という意味で、そこから『中途半端な』という意味の『なまじ』、『中途半端に』という意味の『なまじか』『なまじっか』が派生した。」
が適切な言い方に思う。
「(後に「ば」を伴う)あることを仮定して,それをしないほうがむしろよいという意を表す。…するためにかえって。 」(『大辞林』)
という使い方は,
「 なまじ会えば未練がわく」
「 なまじ真実を知れば苦悩が増す」
も,その延長線上にある。無理にするとは,自分が,もあるが,強いられてもある。それが,いやいやすることとなり,
「十分に考えずにするさま」
に通じ,
うかつ,
につながる,と言えば言えるのかもしれない。
「よくせざらんほどは,うかつに人に知られじ」
との用例(『徒然草』)が引用されている。
「生」という言葉のニュアンスがもたらすものなのかもしれない。いわゆる「なま」として使う,
生で食べる,
生の声,
腕が生だ,
等々の他に,副詞として,
なんとなく,
どことなく,
という使い方をするし,接頭語で,
生兵法
とか
生聞き,
とか,
なまかじり,
と,未熟やいい加減の意と同時に,
生温かい,
生白い,
等々と使って,どことなく,というニュアンスを伝えようとする。それは,
間に合わせ,
の意味の,「かりそめ」とつながっていく。そのあたりから,
「なおざり」 「おざなり」 「ないがしろ」 「ゆるがせ」 「かりそめ」
といった,和語に地続きになる。
「かりそめ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/425644622.html
「おろそか」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/428385232.html
「なおざり」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/428266090.html
で,それぞれ触れた。
漢字の「生」も,
「若芽の形+土」
で,地上に映えたさまを示す,生き生きしてあたらしい,という意を含むから,未熟な意も含んでいる。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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