2016年09月11日

たまさか


「たまさか」は,

偶,
とか
適,

と当てて,『広辞苑』には,

思いがけないさま,たまたま,
まれであること,
万一,

とあり(『大言海』は,邂逅の字も当てている),「たまたま」も,

偶,
とか,
適,
とか
会,

と当てて,『広辞苑』には,

偶然,
まれであるが,時折,

という意味を載せ,かなり重なる。『大言海』は,「たまさかに」で載せ,

「サカニは,ソカニの転。おろそかに,おごそかにの類」

として,

「偶(たま)に同じ。まれに,わくらばに。」

と載せる。「わくらばに」は,たまたま,たまさかに,の意である。

たま(偶)に,

を見ると,

「タマは,絶え間の義かと云ふ。タマサカニの略」

とある。で,「たまたま」を見ると,

「絶え間絶え間の義」

とあり,

稀に時(をり)に遇ひて,たまに,たまさか。(しばしばの反),
ゆくりなく,偶然に,

と意味が載る。「ゆくりなく」は,

思いがけず,偶然に,

の意味で,こう見ると,

たまさか,
たまに,
たまたま,
ゆくりなく,
わくらばに,

は,かなり重なる。

偶然に,

が,

まれに,

となり,

思いがけず,

となる,という意味の流れはある程度わかる。『古語辞典』をみると,「たまさか」は,

「偶然出会うさま。類義語マレは,存在・出現の度数がきわめて少ない意。ユクリカ・ユクリナシは,不意・唐突の意。」

とあり,「たまたま」は,

「予期しなかったことに偶然出くわすさま。和文脈系には使われることが少ない。」

とある。ついでに,「ゆくりなし」を見ると,

「ユクは擬態語。ユクリカと同根(リカは状態を示す接尾語)。気兼ね遠慮なしに事をするさま。
相手がそれを突然だと感じるような仕方。リは状態を示す接尾語。ナシは,甚だしい意」

とある。『大言海』は,「ゆくりなし」については,

「ゆかり無しの転にもあらむか。ゆくりもなく,ゆくりある,などとも見ゆ」

などと,異説を載せる。しかし,だから「不意」なのだ,と言えなくもない。「わくらばに」は,『大言海』に,

「別くる計(ばかり),人多き中を云ふ」

とあるので,「たまさか」の意味の外延にはあっても,偶然にはちがいないが,

不意に,

のニュアンスがあるのとないのとではかなり差がある。

『語源辞典』をみると,「たまさか」は,

「『タマ(たまたま)+サカ(接尾語ソカ)』です。偶然,まれ,誰かとひょっこり出会う意」

とし,『語源由来辞典』は,

http://gogen-allguide.com/ta/tamasaka.html

「たまさかの『たま』は、滅多にないこと、希なことを意味する『たま』『たまたま』と同源。 たまさかの『さか』は、『おろそか (疎か)』や『おごそか(厳か)』の『そか』と同系で、状態を表す接尾語と思われる。接尾語『そか』は、その前の音が『o(母韻)』なので接尾語も『o(そ)』になり,たまさかの『さか』は、前の音が『A(母韻)』なので『A(さ)』になったのであろう。」

とする。しかし,『語源辞典』は,「たまたま」は,

「『タマ(乏しいのトモの変化)』です。たまたま,乏+乏で,機会の乏しい意です」

と,別の説を立てる。そうすると,「たまさか」と「たまたま」は,

偶然の方に力を入れる,

か,

まれ,つまり僅かの機会の方に力を入れる,

か,ものの見方の違いということになる。しかし,『日本語の語源』には,

「『ひじょうに稀である』という意のイタマレニ(甚稀に)は,省略されて,タマニ(偶に)に変化した。これを強めてタマタマ(偶々)という。イササカ(聊か)は,『ついちょっと。ほんのすこし。わずかばかり』という意の形容動詞である。『めったに会いがたいものについちょっとあう』という意を表現するとき,ふたつの形容動詞を重ねてタマニイササカ(偶に聊か)といった。語中の三音を落としてタマサカ(偶)になった。〈わたつみの神のをとめにタマサカニ漕ぎ向かひ〉(万葉・水江浦島),〈タマサカニわが見しひとをいかならむ縁(よし)をもちてかまた一目見む〉(万葉)。」

とあり,これによれば,元々は,

まれ,

という意であり,それを出会う側が,

不意に,

と受け止めるか,

偶然に,

と受け止めるか,

唐突に,

と受け止めるか,

予期せずに,

と受け止めるかで,微妙な語感の幅になったということなのではあるまいか。因みに,「偶」の字は,

「禺は,上部が大きい頭,下部が尾で,大頭のひとまねざるをえがいた象形文字。偶は『人+音符禺』で,人に似た姿をとることから,人形の意となり,本物と並んで対をなすことから,偶数の意図なる。」

とある。偶然,の「偶」であり,この字を当てた慧眼に畏れ入るしかない。

参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

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