2016年09月16日
ゆくりなく
たまさか,
とか
たまたま,
と同義で,
ゆくりなく,
わくらば,
という言葉があることは,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/441825356.html
で触れた。『広辞苑』には,「ゆくりなし(く)」は,
思いがけない,突然である,
の意味を載せ,「わくらば」は,
病葉,
で,いわゆる「色づきすがれた葉」のことだが,「わくらばに」となると,
邂逅に,
とあて,
たまさかに,たまたま,偶然,
という意味になる(中世末の『日葡辞典』には『わくらわに』とあり,同じ意味になる)。
『語源辞典』をみると,「ゆくりなく」は,
①「ユカリ(縁)+なく」の音韻変化,
②「ユックリとする暇なく」。ナクを打消しと取る,
③「ユクリ(突然)+なく(甚・接尾語)。突然の強調,
と,三説あるとする。「わくらば」は,
「『ワクラ(病気・別)+葉』です。色の変わった若葉,です。ワクラバは,偶然見られる葉ですので『偶然,たまたま』の意も表します。ですから,同源です。」
という。『大言海』は,「ゆくりなし」について,
「ゆかり無しの転にもあらむか。ゆくりもなく,ゆくりある,などとも見ゆ」
と,上記の①説を取っているが,『古語辞典』で「ゆくりなし」を見ると,
「ユクは擬態語。ユクリカと同根(リカは状態を示す接尾語)。気兼ね遠慮なしに事をするさま。相手がそれを突然だと感じるような仕方。リは状態を示す接尾語。ナシは,甚だしい意」
と,ちょっとちがう説を立て,
事をするのに無遠慮である,
だしぬけである,
という意味を載せる。唐突感が強い,という意味合いなのだろう。因みに,「ゆくりか」は,
「ユクは擬態語。ユクリナシと同根。リカは状態を示す接尾語」
とあり,
無遠慮で気兼ねをしないさま,
思いがけず突然なさま,
という意味になる。しかし,「ゆくりか」のひとつ前の項に,「ゆくり」があり,
緩り,
と当てて,
ゆとりがある,ゆったりとしているさま,ゆっくり,
の意味なので,あるいは,素人判断に過ぎないが,「ゆくり」の状態を妨げるというニュアンスなのではないか,と想像する(上記の②説になる)。たた,「ゆくり」は,『大言海』に,
縁,
と当てて,
「ユカリの転」
とある。各辞書は,,それぞれの主張の一貫性を保とうとしている意図が見えてくる。
「わくらばに」は,『大言海』に,
「別くる計(ばかり),人多き中を云ふ」
とある。しかし,『日本語の語源』には,
「『こんなまれに』という意のカクマレニ(斯く希に)には複雑な転化経路をたどってワクラバニ(邂逅)になった。『カ』の子音交替(kf),『レ』の母音交替(ea)の結果,『ファクマラニ』に転音した。さらに,『ファ』の子音交替(fw),『マラ』の転位で,ワクラマニ・ワクラバニに転化して,『たまさかに。まれに。たまに』の意の副詞になった。〈人となることは難きをワクラバニなれる我身は〉万葉。」
とあり,「病葉」からの転移ではないとする。だから,「病葉」については,こう書く。
「同音異議のワクラバ(病葉)がある。夏ごろ暑気にむされて赤や黄に変色した朽ち葉のことである。アカルハ(赤る葉)に子音(w)が添加されたワカルハは,『カル』の部分に母韻の転位が行われて『クラ』になり,ワクラバになった。〈ワクラバや葉守りの神もおはさぬか〉(新類題・玉川)」
とある。あるいは,
「アカラムハ(赤らむ葉)の省略形アカラバに子音(w)が添加されてワカラバになり,『カ』が母音交替(au)をとげてワクラバに転化した。」
とある。これを見る限り,「病葉」と「わくらばに」は,別系統ということになる。
参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
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今日のアイデア;
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