2016年09月20日

涙ぐむ


「涙ぐむ」は,

眼に涙を含む。涙を催す。泣きそうになる,

という意味である。「涙ぐむ」の「ぐみ」は,

「ぐむ」は接尾語,

と,『大辞林 第三版』にもあるし,『古語辞典』にも,

「グミは,ツノグミ,ミヅグミなどのグミ」

とあり,「ぐみ」を見ると,

「名詞を承けて四段活用の動詞をつくる。内部に含まれている力や物が外に形をとって現れる意」

の接尾語として,

(芽や根が)ふくらみ,延びる,
(涙が)こみあげて滲み出る,
(水を)含む,

という意味と出る。しかし,『日本語の語源』には,「ナミダグム」は,

ナミダフクム,

の,少数音節の脱落の例として載る。たとえば,「ふ」の項だけでも,

フトワスレ(不図忘れ)→ドワスレ,
フフミヅキ(含み月)→フミヅキ(文月),
メフクム(芽含む)→メグム(芽ぐむ),
コフジキ(乞ふ食)→コジキ(乞食),
フミチ(踏み地)→ミチ(道),
ブンゲンシャ→ブゲンシャ(分限者),

等々の例が載る。『大言海』も,「なみだぐむ」に,

涙含む,

と当て,

「涙含(ナミダブクム)の略」

と載せる。「ぐみ」と接尾語とする謂れは,転化が起こった後の理屈なのではないか,という気がする。

「なみだ」は,

涙,
泪,
涕,

の字を当てる。「なみだ」の語源は,

「ナ(泣き)+ミダ(水垂)」

説が有力らしい。『大言海』も,その説に基づき,

「泣水垂(なきみだり)の略かと云ふ。朝鮮語,ヌン(眼),ムル(水)暹羅(しゃむ)語,ナム(水),タ(眼)」

とある。『古語辞典』には,

「古くはナミチとも。万葉の後期からナミダ」

とある。たとえば,

「あが兄(せ)の君は那美多(なみた)ぐましも」

と使われる。さらに,

「朝鮮語の涙と同源か」

と,『大言海』と同趣旨の注記がある。「ナミダ」の語源が,一筋縄ではいかない,というか,ひょっとすると,ナミダという言葉は,人の移動に伴って,日本列島に入ってきたのだとうかがわせる。

「なみだ」には,涙の字を当てるが,この字は,

「水+戻(はねる,はらはらとちる)」

の会意文字。泪の字は,涙と同じと,『漢和辞典』にはあるが,

「水+目」

は,わかりやすすぎる。「涕」の字は,

「弟(テイ)は,『ひものたれたさま+棒くい』で,上から下へひもの巻いた棒の低い所を/印で示した指事文字。『下にくだる』『低い』などの意を含み,兄弟のうち背の低い年下の者を弟という。低(背の低い人)と同系。涕は『水+音符弟』で,なみだが上から下へ低くたれ落ちること。」

とある。「なみだ」の,涙,涕の使い分けは,辞書にはなかったが,「なく」については,

「泣」は,声をたてずに涙を流してなく,
「哭」は,なみだを流し,声をあげて深く悲しみなく,
「啼」は,声をあげてなく,
「鳴」は,鳥獣のなく,

の区別があった。和語には,「なく」しかなく,

「音(ネ・ナ)+く」

で,

「どういうなき声でも区別しなかったようです。涙を流す意も,声を出す意もナクです。」

とあり, 『古語辞典』には,「ナ」は,

「ネ」の古形とあり,

『大言海』には,

音(ネ)の活用形,

ともあるが,要するに,「音」であって,

「鳴く」も「泣く」も区別がないことを意味する。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)


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