2016年10月23日

経済学


小島寛之『ゼロからわかる 経済学の思考法』を読む。

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随所に,経済学の現状への批判がみられる。たとえば,あとがきで,

「経済学者の著作のほとんどには,『経済学が現実を説明できている』という大前提が見られる。新聞記事などで経済について語る経済学者もみな自信満々だ。
 はっきり言って,僕にはそういう態度は理解できない。そういう人たちが,本当にそう信じて言っているのか,職業的立場からわざとそういうスタンスをとっているのかはわからないが,僕の感覚とは大きく異なる。…現実の理論としては,経済学は物理学から数百年分遅れた段階にしかないというのが,僕の正直な認識なのである。」

それはそうだろう。

「日本では1990年代から継続的なデフレに見舞われており,歴史的に珍しい経験を余儀なくされている」

にもかかわらず,それを説明できていない。説明できているなら,処方箋が出せるはずだ。経済学は,ままごとにすぎないか,歴史学と同じく過去の分析をする,後出しじゃんけんの学問でしかない,という証拠のように僕には見える。

著者は,

「宇沢先生の講義で,人生最大級の衝撃を受けた。」

という出会いから経済学の世界に足を踏み入れ,そこで講義を受けながら,

「数学としての経済学はとてつもなく面白い」
「経済学は現実説明力はがっかりするほど乏しい」

と感じ,数学科で学んだキャリアから,前者に向かう。

「宇沢先生は数学的方法に批判的であったが,それは先生の主張したいこと(人権的な問題)が数学と不調和であって,経済学が数学によって現実を解明すること自体は,きっとある程度はできるのだろう」
 
と考えて,

「宇沢先生の経済学に魅せられてこの道に入ったが,先生のような方法で,経済学にアプローチする道はえらばなかった。社会観の点でも人間的な洞察力の点でも先生に比べてずっと未熟で非力だと感じたからだ。(中略)
 他方,伝統的なミクロ経済学にはある程度の適性があった。数学的なモデルを精緻に操作することが,面白くこそあれ,苦痛でなかったからだ。」

しかし,

「経済学は,現実解析の学問としては,まだ完成からほど遠い状態であり,社会設計や政策選択の科学としては無力にも近い状態だ。世の中には,経済学的な主張をあたかも『科学的真実』かのように堂々と語る経済学者も多いが,きっとそういう人たちは,ある種の社会的な立場からうそぶいているか,あるいは,物理学を勉強したことがないせいで『科学的真実』とは何であるかがまったくわかっていないのであろう。」

と。経済学が物理学のような法則を目指す,という志向は,

「経済活動の運動法則は,物理学と類似した形で解明しようと試みる」

というものだが,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/438821677.html

で批判していた,同じく物理学の法則をモデルにした「社会心理学」が,

「矮小な学問になったしまった」

のと同じ隘路に,経済学も入り込んでしまったようにしか思えない。結局著者は,

ゲーム理論,

にいきつくのだが,現在主流の「非協力ゲーム」については言及していないのでわからないが,かつて主流だった,「協力ゲーム」について,

「実証的な研究はほとんど存在しない」

が唯一の例として,「空港の滑走路を協力ゲームと見なし」た例を挙げる。これが経済学なのか。こうした,自己完結した閉じられた世界の分析に向いていても,著者自身が言うように,

実験ができないこと,
人間は行動を変えること,
一回性の出来事であること,

によって,物理学のようにはいかない。それにしても,ほぼ30年日本の不況を解明できず,有効な処方箋が出せないのでは,ままごと遊びをしている場合ではないのではないか,と僕には思えるが,著者は強気である。

「経済学は数理科学であるべきだと思っているし,それしか成功の道はないと信じている。」

「経済学はじわじわ進歩している。その歩みはゆっくりすぎるかもしれないが,しかし着実に新しい境地にむかっているのである。このような小さな全身の積み重ねが,それだけが,遠い将来に,経済学を本物の科学に成長させるのであろう。」

と。どうやらこの失われた30年は当分克服される見込みはなさそうである。

参考文献;
小島寛之『ゼロからわかる 経済学の思考法』(講談社現代新書)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
posted by Toshi at 05:13| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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