2016年11月04日

つまらない


「つまらない」は,

つまらぬ,

とも言うし,

つまらん,
つまんない,

という言い方もするが,『広辞苑』には,「つまらぬ」について,

「ツマルに否定の助動詞ズの連体形ヌが付いたもの。『つまらない』とも」

と載る。『大辞林』は,「つまらない」で,

「動詞『つまる』の未然形+打消しの助動詞『ない』」

と載る。意味は,多く,

面白くない,

という意味で使うが,辞書的には,

道理に合わない,得心できない,
意に満たない,面白くない,
取るに足りない,価値がない,自己に関する物事について,謙遜するときにも使う,
馬鹿げている,とんでもない,
金に困る,うまくゆかない,

と意味の幅が広い。

詰(ま)らない,

と当てるので,「詰まる」という意味から来ているとは想像がつく。

『語源辞典』には,

「『詰まるの未然形,ツマラ+ない(打消し)』ものがぎっしり詰まっていない,内容がない,終結がよくない,面白くないの意です。」

とある。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/tu/tsumaranai.html

は,

「つまらないは、動詞『詰まる(つまる)』に打ち消しの助動詞『ない』がついたもの。『詰まる』は動けなくなる状態のほか、行動や思考が行き詰る状態も意味する。 そこから、『納得する』『決着する』などの意味を持つようになった。 やがて、『納得できない』の意味で『つまらない』が使われ、現在の意味に変化した。」

と載せる。『デジタル大辞泉』は,用例で,

「『大金をはたいてつまらない(下らない)買い物をした』『あんなつまらない(くだらない)人間とは付き合うな』など、価値のない意では相通じて用いられる。『つまらない』は、そのものに対する評価というより、心がひかれない、楽しめないという状態を言う。『内容はよいが、つまらない映画』。『くだらない』はある物の評価が低いことに重点があり、楽しさ、おもしろさとは別である。『この映画はくだらないが、おもしろい』。『独りぼっちはつまらない』とは言うが、『独りぼっちはくだらない』とはふつう言わない。

と書く。どうやら,「詰まる」の意味に,「つまらない」の意味の理由がある。『広辞苑』は,「詰まる」を,

①満ちてふさがる意として,
 つかえて通じない,ふさがる,行き詰まって先へ進まない,
 充満する,一杯になる,
 行きつく,極限に達する,
 十分納得のいく状態になる,
②満ちて身動きができなくなる意として,
 窮屈になる,圧迫を感ずる,
 ゆとりなく,さしせまる,
 苦しみ困る,窮する,窮乏する,
 息の詰まったような感じの発音になる,

と整理する。②のほうは,①をメタファとして,意味の外延を広げているという感じである。しかし,「詰まり」を,副詞として,

つまり,何々,

という使い方をする場合は,

結局,
とか,
要するに,
とか,
つまるところ,

という意味になるが,この使い方は,「詰まる」の「行どまり」という意味を前提にしないと成り立たない。とすると,「詰まらない」が「詰まる」の否定なら,

行き止まりではない,

と,意味が変ってしまう。

『古語辞典』では,「詰まり」の項に,

「ツメ(詰)の自動詞形」

とあり(この否定で,「詰まらぬ」となる),「詰(蔵)め」について,

「一定の枠の中に物を入れて,すきま・緩みをなくす意」

とある。これが原意なら,「つまらぬ」が,

隙間がある,
内容がすかすか,

といった意味にメタファとして広がる意味はよく分かる。しかし,この解釈では,言葉の用例の広がりが説明できないのではないか。「詰まらない」は,

「動詞『つまる』の未然形+打消しの助動詞『ない』」

という説明だけでは,一筋縄ではゆかないのである。それは,次の一文を読むと初めて納得できる。

「『はなはだあやしい。ふつごうだ』という意味のケシカラム(怪しからむ)は,推量のムが撥音化してムシカランというようになった。文章を書くに当たって撥音を復原するとき,紫式部は,推量のムであるべきを打消しのヌと誤認して〈かくケシカラヌ心ばへは使ふものか〉(源・帚木)とした。それでは『怪しくない』という意味になる。語義の矛盾に気付いた学者は“意味の反転”で片づけました。
 『場所,程度などが高い所から低い所へ一気に落ちる』ことをクダル(下る。降る)という。『つまらない。価値がない』というとき,推量の助動詞ムをつけてクダラム(下らむ)といった。撥音化されてクダランといったが,鼻音に復原するとき,これまた打消しと誤認して,クダラヌ・クダラナイというようになった。これでは価値があるということになる。
 『行き詰まるだろう』という意味のツマラム(詰まらむ)も撥音化ツマランという。これを鼻音に復原するときツマラヌ・ツマラナイと打消しに変えてしまった。『行き詰まらない』という意味になるのだから,これも“意味の反転”で片づけてきた。」

そして,方言には,原義を残しているものがあり,貧乏・窮迫を,

つまらん,

という地方がある,という。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)


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posted by Toshi at 05:43| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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