2016年11月07日

エスノグラフィー


金井壽宏・佐藤郁哉・ギデオン・クンダ・ジョン・ヴァン-マーネン『組織エスノグラフィー』を読む。

組織エスノグラフィー.jpg


本書は,

金井壽宏,
佐藤郁哉,
ギデオン・クンダ,
ジョン・ヴァン-マーネン,

という四人の(エスノグラフィーの可能性を追及してきた)執筆者による,

組織エスノグラフィーの入門書,

である。エスノグラフィーとは,

民族誌,

と訳されるように,

「人類学におけるフィールドワークおよびその報告書を指す言葉として使われてきたものであるが,次第に社会科学一般におけるフィールドワーク的な作業とその報告書を指す用語として使われるようになってきている」

というものであり,

「他の方法よりも深く調査対象に入り込み,参加者として観察することによって,内部者の見解を解明するためのフィールドワークの報告書(モノグラフ,論文,著書などの作品)のことである。また成果となる作品を指すばかりでなく,フィールドワーク的な調査プロセスそのものを指してエスノグラフィーということもある。この場合の訳語としては『民族誌的調査』というものがある。」

確かに,民族誌というと,人類学者マリノフスキーなどの著作が思い浮かぶが,

「人類学者ロイド・ウォーナーが,シカゴ郊外のホーソン工場に招かれて,働く人の文化や規範に関する調査方法を始動したホーソン実験での観察研究の開始は,1931年であるので,元祖マリノフスキーの著書から10年もたたずに,エスノグラフィーは,近代組織に適用されたことになる。組織エスノグラフィーの起源の古さは,意外に見逃されている。」

というように,未開地の民族誌だけではなく,工場にこの方法が使えると気づいたのは意外と早く,本書の著者たちは,

警察,ハイテク企業,ハイテクベンチャーの企業家の集う場,暴走族,劇団と演劇界,

等々でエスノグラフィーを実践してきている。

そういう著者たちは,本書の特徴を,

「自らの調査を手本,見本として行儀良く提示するのではなく,苦労した点も正直に描いたこと」
「エスノグラフィーの書き方にもこだわったこと」
「『組織』エスノグラフィーに究極の焦点を合わせている点」

の三つを挙げる。金井氏は,組織エスノグラフィーの特徴を,

内部者(現地人,住民)の見解に迫る,
フィールドに住む(長く居るか,少なくとも足繁く通う),
参与観察という方法を重視する,

を挙げている。これは,

フィールドワーク,

という言葉ではなく,

エスノグラフィー,

という言葉が使われている理由とも関わる。それは,

「社会や文化を対象とした現場調査(フィールドワーク)と他の学問分野(たとえば,地学や動物学)における野外調査(フィールドワーク)と明確に区別する」

ということであり,

「同じ社会調査としてのフィールドワークでも,文献研究や資料調査などのようなデスクワークと対比させるためにサーベイのような調査であってもフィールドワークと呼ぶことがある。したがって,これらの調査と参与観察法(一種の『体験取材』)やインフォーマル・インタビューによる密着取材的な現場調査(他のタイプのフィールドワークと区別するために,『民族誌的フィールドワーク[ethnographic fieldwork])』と呼ばれることも多い)とを区別する」

ために,エスノグラフィーと名づけていることと深くかかわる。

「知らない世界なのに,内部者の考えがわかるためには,そこに入り込むしかない。中に入り込んでそこに住むか,澄むに匹敵するぐらい通って,参与観察を重ねる。その結果,元の目的である,内部者のものの見方まで見えてくる。それは,文化の理解にも近づいているということである。」

しかし,金井氏は言う,

「作品としてのエスノグラフィーを,『読ませる』『読者をうならせる』レベルに熟成させるためには,これら3点は必要条件にすぎない。つまり,『書き方』『物語り方』『読ませ方』にも工夫がいるのである。」

本書が,書き方にこだわっている理由である。

金井壽宏,
佐藤郁哉,
ギデオン・クンダ,

の3氏による,

「研究課題を見つけて,特定の調査対象にアクセスし,中に入り込んでフィールド調査を実施し,フィールドノーツから意味を見出す分析や解釈の作業を行い,その結果を書いていく執筆段階までの,喜びも苦労も,告白を混じえながら描かれている」

第Ⅱ部の「三つの告白」は読みごたえがある。しかし,佐藤氏が引く,

「何にもまして,フィールドワークというのは一つの技芸(わざ)なのであり,本を読むだけで学べるようなものではないということを肝に銘じておく必要がある。ブロック工の修行のようなものである。コツをつかむためには,まず自分の手でやってみなければならない。試行錯誤もあれば,事前に練習しておかなければならないことが多く,また徒弟修業の期間もある。この技芸の多くの部分は口伝や模倣を通して教えられるものであるし,いまだ明らかにされていない部分もかなりある。」

というジェラルド・サトルズ教授の言葉が印象的である。

参考文献;
金井 壽宏・佐藤 郁哉・ギデオン・クンダ・ジョン・ヴァン-マーネン『組織エスノグラフィー』(有斐閣)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
posted by Toshi at 05:21| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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