2016年11月11日
和
和は,
熟,
とも当て,
にき,
と訓んだが,中世以降,
にぎ,
と訓む。
和魂(にぎたま),
の「和(にぎ)」である。『広辞苑』には,「にき」の項で,
「ニコと同根。奈良・平安時代には,清音。後世はニギとも」
として,
「おだやかな」「やわらかな」「こまやかな」「精熟した」などの意を表す,
と載る。「荒(あら)」が対。動詞化すると,
にき(和)び,
で,和らぐ,慣れ親しむ,
という意味。対は,「あら(荒)び」となる。因みに,
にきび(面皰),
は,かつて「にきみ」といったが,
「ニキはニキ(和)と同根」
とある(『古語辞典』)。
にきたえ(へ),
は,
和妙,
和栲,
和幣,
と当てるが,
古く折目の精緻な布の総称,またうって柔らかく曝した布,
の意で,対は,荒妙(荒栲)。『日本語の語源』によると,
「神に供える麻布をぎたへ(和栲)といったのが,たへ(t[ah]e)の縮約で,にぎて(和幣)になった。」
とある。因みに,「にこ」は,
和,
柔,
と当て,「荒(あら)」と対なのも「にき」に同じ。
体言に冠して「やわらかい」「こまかい」の意を表す。にき,
穏やかに笑うさま,
と載る。前者は,にこ毛,にこ草,等々と使う。後者は,「にこと笑う」の「にこ」である。
『大言海』は,「にぎ」の項として,
「和(なぎ)に通ず。荒(あら)の反」
とある。そして,
柔飯(にぎいひ),
塾蝦夷(にぎえみし),
和稻(にぎしね),
和炭(にぎずみ),
等々が並ぶ,ちなみに,和稻(にぎしね)とは,
籾をすりさった米,
の意で,「抜穂の荒稻(あらしね)」が対である。因みに,
にぎはひ,
は,
賑はひ,
と当てるが,語源は,
「ニギ(和)+ハフ(延ふ)」
で,「和やかな状態が打ち続き,盛んになる」意であり,
にぎやか,
も,
賑やか,
と当てるが,語源は,
「ニギ(和)+やか(形容動詞化)」
で,「和やかで,豊かで活気がある状態の形容動詞」である。
反対の荒(あら)は,『古語辞典』には,
「にき・にこ(和)の対。アラカネ(鉄)・アラタマ(璞)・アラト(磺)などのアラで,物が生硬で剛堅で,烈しい意を表す。」
とある。また「荒(あら)」は,
粗,
とも当てるが,その場合は,
「こまか(濃・密)の対。アラアラ(粗・略)・アラケ(散)・アライミ(粗忌)・アラキ(粗棺)などのアラ。物が,バラバラで,粗略・粗大である意を表す。母音交替によってオロに転じ,オロカ・オロソカのカタチでも使われる。」
とあり,こう注記がある。
「(粗と荒は)起源的に別であったと思われるが,後に混用され,次第に『荒』の一字で両方の意味を表すようになった。」
しかし,そうではないのではないか。元々和語では,
「あら」
という表現しかなく,漢字で,荒と粗を区別することを知ったが,無理があり,混淆した,と見るべきではないか。だから,「あら」と言っている限り,
粗いの「あら」
も
荒っぽいの荒「あら」
も,
区別がつかない。前述した,にきたえ(へ)(和妙,和栲)は,反対は,荒妙(荒栲),つまりこの場合,荒々しいではなく,粗いを指す。区別はとうについていない。
「『大言海』の「あら」の説明がいい。
「嗟(あら)にて,見て驚嘆する声にもあるか」
と。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
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