臨床実習
友久久雄・吉川 悟編『臨床心理実習マニュアル』を読む。
本書は,臨床心理士養成課程の大学院生のために,
「実習の場に学生が赴く前段階で,最低限の座学の延長として『実習先が実習生に知っておいてもらいたい』と考えておられる内容を整理したもの」
である。本来,学内向けの,
実習マニュアル,
ベースにしている。
本書中にもあったが,
「現在の大学院生に見られる特性として,『教わることはできるものの,学ぶことができない』『自ら進んで自己研鑽のために,自ら研修会,研究かいに参加する力が弱く,いわゆるハングリー精神に欠ける』」
という指摘がある。よく言われることだ。しかし,僕はそうは思っていない。昔だって,そんなに学ぶ力があったとは思わない。むしろ,社会が,受け入れる企業が,即戦力を求めるためだ,と思う。要は,寛容さというか,余裕というか,懐が浅くなったにすぎない。実習で,試行錯誤すること自体が,スキルだけではなく,精神を鍛えていくために不可欠な学びの場だという受け入れ側の姿勢の欠如が,結局芯のある人材を育て損なっているとしか思えない。それと,根本的には,平木典子先生が,『心理臨床スーパーヴィジョン』で指摘しておられるが,我が国には,個々のセラピストや教員に依存するのではない,公的な育成の仕組みと育成プログラムが確立していないせいでもあるようだ。
臨床心理実習は,
クリニック実習に適応していくため,社会的な常識を身につける,
クリニックで求められている治療者との関係,他のスタッフとの関係,あるいは実践の場面に触れることなとで,自ら身につけるべき資質・能力・知識について気づく,
現実の社会的なニーズの一部をクリニックで体験し,それに向けての自己研鑽の場とする,
心理担当者に要求される資質を知ることで,現在の自己に目を向け,柔軟性,臨機応変さを身につける,
というならなおさらだ。しかし,大事なことが抜けている。自分が向いていないと思ったら,転身するための最後のチャンスであるかもしれない,ということだ。上記のようなことを,改めて言い聞かせられなければならないのだとすると,そんなことすら,学んでいないのかもしれないからだ。
本書は二部構成になっていて,第一部は,
「実習のための基本」」
として,
臨床心理実習に当たっての心得,
臨床心理実習の領域別基本事項,
等々,実習のための基本的なガイドラインであり,
「臨床心理學的実践においては,多様なオリエンテーションが存在するとともに,多様な現場があり,それぞれに臨床心理士に対する要請は異なるものとなっています。それらに共通する基本中の基本ともいえる部分だけを取り出し,整理した内容」
になっている。
第二部は,
「実習のための臨床メモ」
として,
妄想と幻覚,
うつ病,
パーソナリティ障害,
発達障害,
心身症,
自傷行為,
摂食障害,
強迫性障害,
ひきこもり・不登校,
トラウマ,
虐待やDVなどの家族の問題,
症例を病名の区分によってだけではなく列挙しているところが特徴で,
「学生が実習先で出会うであろういくつかの疾患について,基本的な立場から解説を行っています。ここでは疾患や行動障害だけでなく,事例の理解に結びつくためのクライエントの背景にある家族に対するアセスメントを含めています。個々の疾患を理解するためのガイドラインはいくつも存在していますが,実質的な事例を理解し対応するために必要なことは,現場で要請されるクライエントからのさまざまな訴えをどのように把握しておくべきか,日常的な影響を与えている家族をどのように面接の中に位置づけるべきか,そして,事例の全体像をどのように理解すべきかなどを示しています。」
となっており,
事例の背景にある「家族」を考慮すること,
という項目にウエイトをおいていることが,編者たちの立場をよく示しているが,この部分は,実習生のみならず,実践的に非常に参考になる。
参考文献;
友久久雄・吉川 悟編『臨床心理実習マニュアル』(遠見書房)
平木典子『心理臨床スーパーヴィジョン』(金剛出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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