2016年11月15日

いいです


「いいです」は,

良いです,
あるいは,
(それで)結構です,

と肯定の意味にも使うが,

要らないです,
あるいは
(それは)結構です,

という,

否定,
あるいは,
拒絶,

の両義性があり(「結構です」も両義性があるが),まさに,

すいません,

と同様,文脈依存の日本語の真骨頂のような言い回しではなかろうか。これが,

いいんです,

と「ん」が入って強調されても,その両義性は変わらない。

すい(み)ません,

については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/398895440.html

http://ppnetwork.seesaa.net/article/409986995.html

で触れた。で,「いいです」であるが,この,

いい,

は,恐らく,

よい,

あるいは,

よし,

が変化したものである。「よし」だと,

好し,
吉し,
善し,
宜し,

が当てられ,『古語辞典』には,

「『あし(悪)』『わろし(劣)』の対。吉凶・正邪・善悪・美醜・優劣などについて,一般的に,好感・満足をを得る状態である意」

とある。「よい」だと,

好い,
善い,

が当てられ,『広辞苑』に,

「『よい』の転。終止・連用形のみ。『よい』のくだけた言い方」

とある。『デジタル大辞泉』には,

「『よい』の終止形・連体形だけが、類義・類音の『ええ(良)』の影響を受けて『いい』となった語。『いくない』『いかった』なども地方によっては使われるが、あまり一般的でない。」

として,用法として,

「『日当たりがいい(よい)』『都合がいい(よい)』『気分がいい(よい)』、また『いい(よい)評判』『いい(よい)成績』などでは相通じて用いられるが、話し言葉では『いい』のほうが普通である。
『いい気味だ』『いいざまだ』『いい年をして』『いい迷惑だ』『いい御身分だ』のような皮肉をこめた言い方、相手を非難する言い方では『いい』を使い、『よい』はあまり使わない。『よい子』は正面からの肯定的評価であるが、『いい子になる』では皮肉な意味がこめられる。
類似の語に『よろしい』があり、『評判がよろしい(いい・よい)』『成績がよろしい(いい・よい)』など、『いい』『よい』と同じように使うが、『よろしい成績』『よろしい日当たり』などとは普通はいわない。」

と載る。「よし」には,

宜し,

も当てていたので,「よろし」の含意は元々ある。「よろし」は,

「ヨル(寄)の派生語であるヨラシの転。主観的に良しと評価される,そちらへ寄りたくなる意」

と『広辞苑』にはある。『古語辞典』の「よらし」を見ると,

「ヨリ(寄)の形容詞形。側に寄りたい気持ちがする意が原義。ヨリ(寄)・ヨラシの関係は,アサミ(浅)・アサマシ,サワギ(騒)・サワガシ,ユキ(行)・ユカシの類」

とある。しかし,

いいです,

の肯定は,これでも意味が通じるとしても,拒絶は,これでは意味が通じない。

「よし」には,「縱(縦)し」と当てる言葉がある。

「形容詞ヨシ(宜)の転用。他人の判断や行動を許容・容認し,また自己の決断・断念を表現する語。下に,逆説仮定条件を表す『とも』を伴うことが少なくない。」

と,『古語辞典』にはあり,『大言海』は,

「可(よ)しと縦(ゆる)す意」

として,

「心には叶はねど,せむ方も無ければとて,打任する意を云ふ語。たとひ,さもあらばあれ,ままよ」

と意味が載る。確かに,肯定の「いいです」には,

良い,
好い,

意味があるが,どこか,

とでも言っておくか,

というニュアンスがあるのではないか。否定は,

詮方ない,

が表面に出る,ということだろうか。

じゃあ,いいです,

となると,少し否定が前へ出るか。それにしても,文脈があいまいだと,

肯定,

と取られかねない,危うさがある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)


ホームページ;
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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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