2016年11月16日
丸める
「丸める」は,
形を丸くする,
という意味から,それをメタファーに,
頭髪をそる,剃髪する,
全体をひっくるめる,
丸め込む,巧みに人を言いくるめる,
端数を切り上げたり、切り捨てたりして扱いやすい数にする,
と,意味の外延の抽象度が上がる(『広辞苑』『デジタル大辞泉』)。『江戸語大辞典』には,
丸くおさめる,人の和をはかる,
口先でうまく従わせる,
の意しか載らない。
丸めるの「まる」は,
丸,
円(圓),
と当てるが,「マロ」の転。古形は,「マロ」。
「球形の意。転じてひと固まりであるさま」(『古語辞典』)
である。だから,「丸める」は,
まろめる,
まろむ,
とも言う。語源は,
「『マル(丸・円)+める』で,他人を自由に操る意です。」
とある(『語源辞典』)が,いかがなものか。「まる(丸・円・○)」の語源は,
「満(例:満三年,まる三年)」
である。
「manがmaruと音韻変化した語です。マロ(麿・麻呂)も同源です。」
とある。「麿」をみると,
「『マロ(丸・円)』です。完全で立派で丸い人,の意です。上代の自称。」
とある。「まろ(麿・麻呂・丸)」について,『古語辞典』は,
「奈良時代には,多く男子の名に用いた語。平安時代には広く男女にわたって自称の語として使われ,親愛の情の込められた表現であった。室町時代,転じてマルとなり,接尾語となった。」
とある。しかし,漢字「丸」の字は,
「『曲がった線+人が身体をまるめてしゃがむさま』で,まるいことをあらわす」
とある。しかも,意味は,
たま,弾丸や丸薬,
を指し,どうやら,
まるい,
まるめる,
まる,円,
まる,全部,
まる,城郭,
人の名マル,
というのは,我が国だけで使う意味のようである。つまりは,本来「球」しか意味しないものを,勝手に拡大して使って,円だの,全部だのと,意味を広げたということになる。
「圓(円)」の字は,
「員(ウン・イン)は,『○印+鼎』の会意文字で,丸い形の容器を示す。圓は,『囗(かこい)+音符員』で,まるいかこい」
である。圓と丸の違いは,
圓は,方の対。まんまろきなり,形態に限らず,義理の上にも広く用ふ。圓満,圓熟,
丸は,弾丸なり,丸薬の如く,まんまろく,ころげるものなり,
とある(『字源』)ので,あるいは,「丸」は,「圓(円)」の意を受けて広がったのではないか,と推測される。
『大言海』の「まろ(圓・丸)む」の意味が,この間の経緯をよく示す。
「手にて固めて圓(まる)くなす。まろぐ。まるむ。まろめる。」
「圓(まろ)き形をつくる。」
その意味で,丸と圓ば混同されたようだ。「まるく(かたち)つくる」ものはすべて,丸なのだ。城郭で,
真田丸,
のように,「郭・曲輪(くるわ)」を丸と呼ぶが,
「安土桃山時代以降の城では、それぞれの曲輪はその用途によって「○○曲輪」「○○丸」などと呼ばれ、また時代や地域によっても名称は異なる。“本丸”“二の丸”など曲輪を“丸”と言うようになった起源や語源はわかっていない」
と,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9B%B2%E8%BC%AA
では言うが,多く,まるく囲む所から来たに違いない。
「城をとるべきようは、小く丸くとるべし」(北条氏長『兵法雌鑑』)
「城は小円を善とすること、城取の習とぞ、此故に丸とは呼ぶ也」(木下義俊『武用弁略』)
とあるように,語源的には,本来は,丸ではなく,圓でなくてはならない。
また,船につける「丸」については,
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1122743421
に,
「船舶法の取り扱い手続きに『船舶ノ名称ニハ成ルベク其ノ末尾ニ丸ノ字ヲ附セシムベシ』とあるが,その謂れには,
1.豊臣秀吉が巨船を造って日本丸と名付けたのが起こりである。
2.中国の皇帝の時、天から降りて船を造ることを教えた白童丸の丸を採った。
3.易から来た。
4.封建時代に屋号を用いた丸から転用された。
5.麿から転化した。
(自分のことを麿と言ったのが、後に愛敬の意味で人名に付け、
さらにそれが広く愛玩物に用いられ、
同時に麿から丸に転じ、船にもつけるようになった。)
とある。これも,「麿」の謂れが一番近い気がするが。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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