2016年11月17日

スーパーヴィジョン


平木典子『心理臨床スーパーヴィジョン-学派を超えた統合モデル』を読む。

心理臨床スーパーヴィジョン.jpg


本書は,「はじめに」と「おわりに」で,つぶさに,著者の問題意識が説明されている。

「心理臨床におけるスーパーヴィジョンについては,これまで個々の心理臨床職やその指導・訓練に携わる専門家,あるいは各学派内でさまざまな形で検討されてきた。しかし,その検討は主として学派内あるいは個人内に止まっており,スーパーヴィジョン全般,あるいは個人や学派を超えたスーパーヴィジョンについて検討されたものは非常に少ない。
 そのような現状を背景にして1991年に心理臨床職専門の養成を開始した大学院修士課程で,スーパーヴィジョンに力点を置いた訓練を開始することになった筆者は,個人・学派を越えた汎用性のある,あるいは統合的なスーパーヴィジョンの必要性を切に感じていた。
 それまで筆者が行っていたスーパーヴィジョンは,個人的に求められて行うものであったため,個人の志向性,学派の特徴はスーパーヴァイジーとスーパーヴァイザー双方の選択と契約の中に含まれていることで,ほとんど問題にならなかったのだが,心理臨床の初心者にそれは適応できないという基本問題に直面したのである。
 個人技と言える境地に達している心理臨床家であれば,相手の特徴に応じた臨機応変のスーパーヴィジョンができるだろう。ところが,臨床家の成長の歩みの途中に居る指導者が,とりわけ初心者に適したスーパーヴィジョンを行うには,相応の視野と訓練が必要なのではないか,ということでもあった。」

「おわりに」にこう書いた問題意識の背景にあるのは,スーパーヴィジョンには,

視点の多様性,

がいるということのようなのである。たとえば,

ケースに登場するクライエントの立場に立った時は,

「その苦しみや人間関係を味わい,またクライエントに同一化してセラピストの言動に安堵したり,反発を感じたりする。」

自分をセラピストの位置に置いた時は,

「アセスメントや介入を思案し,セラピーの進行やセラピストとしてのあり方などをふり返り,クライエントの状態に思いを馳せるだろう。」

スーパーヴァイジーの立場に立った時は,

「その不安や緊張がひしひしと感じられ,スーパーヴァイザーの一言一句に抵抗や感動を味わったり,自己の未熟さに恥いったりする…。」

スーパーヴァイザーの立場に立った時は,

「セラピストとクライエントの関係やその関係におけるセラピストの支援のポイントに関心が向き,スーパーヴァイザーとして必要な動きや介入に心を砕く。」

観察舎の立場に立つ時,

「異なる視点と立場を持った登場人物の知りえない体験と関係を思い,人間模様の多様性と複雑さを俯瞰することの難しさに目がくらむ。」

という視点を挙げて,スーパーヴァイザーには,

「ケースの中の①クライエント,②カウンセラー,スーパーヴィジョンにおける,③スーパーヴァイジー,④スーパーヴァイザー,そしてそれらすべてを総合した⑤観察者という5つの視点」

が必要なのだと,言う。しかし,日本には,北米で進められているような,

スーパーヴィジョン独自の理論モデル

もなく,

理論横断的なスーパーヴィジョン・モデルの開発,

もなく,個人技に委ねられている。そこには,

「スーパーヴィジョンを受けた経験,あるいは臨床実践経験があれば,スーパーヴィジョンができるといった思い込みがあったと思われる。しかし,指導者各自の臨床実践領域(教育,産業,医療など)における長年かけて身につけた独自の心理臨床モデル(たとえば精神分析,家族療法,コミュニティ心理学など)の活用と工夫は,即初心の心理臨床家の養成・訓練に適用できるとは限らない。また,それは臨床現場のセラピストに対する訓練やスーパーヴィジョンとも同じではない。」

だから,

「指導者が,スーパーヴァイザー・トレーニングを受けていない」

ことと,

「心理臨床モデルを超えたスーパーヴィジョン・モデル」

がないことによる,現在の我が国の指導層の抱える問題は,

第一に,スーパーヴィジョンを受けた経験はあっても,スーパーヴァイザー訓練を受けていないこと,
第二に,心理臨床理論の多様なモデル間の相互交流が少ないこと,
第三に,スーパーヴィジョンの基本理論,特に訓練生に対するスーパーヴィジてョンと現場のセラピストに対するスーパーヴィジョンは異なることに配慮を欠き,さらに,スーパーヴィジョン,カウンセリング,コンサルテーションの区別が不明確なままで,実践指導をしていること,

と指摘する。サブタイトルが,

学派を超えた統合モデル,

とある所以である。

さて,スーパーヴァイザーは,上述のように5つの視点を駆使するのだが,

「スーパーヴァイザーとは,スーパーヴァイジーセラピストのとしての発達やつまずきの様相,特定のクライエントの理解や関係の力動などの相互作用を受けとめながら,適切な場面とタイミングを選択して介入できる人である。そのような指導が訓練生を専門職として出立させ,同僚の臨床に磨きをかけていく。あらためて,スーパーヴィジョンとは,する側と受ける側の現実の可能性が結果として現れる畏るべき事実に気づかされる。」

と,著者の述懐する通り,だからこそ,特別なスーパーヴァイザーの訓練数不可欠なのである。

スーパーヴィジョンの普遍的な原則を5つ挙げている。

1.スーパーヴィジョンには,同時進行する重層的人間の相互作用とその文脈を理解するメタ知識が必要である。
2.スーパーヴィジョンは,スーパーヴァイザーとスーパーヴァイジーの「スーパーヴィジョン同盟」とも呼ぶべき安定した関係の上に成り立つ。
3.スーパーヴィジョンの介入は,スーパーヴァイジーのセラピストとしての発達に応じて行われる。したがって,スーパーヴァイジーの発達段階に応じた検討内容とプロセスが必要である。
4.学びと成長が醸成されるスーパーヴィジョンでは,スーパーヴァイザーとスーパーヴァイジーのアサーティヴなコミュニケーションがある。
5.スーパーヴィジョンは,セラピーの質を高めるためのふり返りと評価を含む指導から成り立っており,その目的は,スーパーヴァイジー自身が頼れる内的スーパーヴァイザーを自己内に育てることである。

これを踏まえた,スーパーヴィジョンの理論とプログラムモデルが,

第2章 心理臨床スーパーヴィジョンの基本,
第3章 スーパーヴィジョンの統合モデル,
第4章 さーパーヴィジョンの形式と方法
第5章 スーパーヴィジョンの実際

と展開される。いまのセラピスト育成システムと育成プログラムがどうなっいるかわからないが,寡聞にして,そうしたシステムが横断的にできたという話は聞かない。

参考文献;
平木典子『心理臨床スーパーヴィジョン』(金剛出版)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
posted by Toshi at 05:54| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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