2016年11月20日
はかる
「はかる」を辞書で引くと,
計る,
測る,
量る,
図る,
謀る,
諮る,
等々と当てる。それぞれ意味が違う。意味の違いは,漢字の字の違いに過ぎない気がする。
『広辞苑』は,
「仕上げようと予定した作業の進捗状態を数量・重さ・長さなどについて見当をつける意」
と注記し,
①「計・測・量」の字を当てる,数量を調べて知る,
②「図・計・測・量」の字を当てる,物事を推し考える,
③「諮・計」の字を当てる,よいわるいなどの見当をつける,
④「謀・計・図」の字を当てる,企てる,もくろむ,工夫する,
⑤「謀」の字を当てる,欺く,だます,
に意味を整理し,こう付記する。
「①で,測定機などを用いる場合は『測』,はかり,ますの場合は『量』を使うことが多い。③(の『相談する』意は)『諮』を使う。④で『謀』は,ふつう悪事の場合に使う。」
しかし,これは,たぶん,漢字による「はかる」の使い分け以降の話だ。『大言海』は,
≪計・測・量≫「大指と中指とを張り限る意」
として,
「物事の程を知らむと試みる。つもる。はからふ。」
をまず挙げ,次に,
≪権・称≫「秤にて軽重を試みる。」
「枡にて多少を試みる。掛く。」
≪度≫「尺(ものさし)にて長短を試みる。差す。」
≪思量・謀≫「考へ分く。分別す。たくむ。」
≪詢・商議≫「語らひて論じ定む。相談す。」
「欺く。だます。たばかる。たぶらかす。」
と分けている。『古語辞典』は,「はか(計・量)り」を,
「はか(量・捗)の動詞化」
としている。「はかどる」の「はか」で,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/431282570.html
で,触れたことがあるが,「はか」について,『大言海』は,「計」を,
「稻を植え,又は刈り,或いは茅を刈るなどに,其地を分かつに云ふ語。田なれば,一面の田を,数区に分ち,一はか,二(ふた)はか,三(み)はかなどと立てて,男女打雑り,一はかより植え始め,又刈り始めて,二はか,三はか,と終はる。又稲を植えたる列と列との間をも云ふ。即ち,稲株と稲株との間を,一はか,二はかと称す。」
とし,「量」を,
「量(はかり)の略。田を割りて,一はか二はかと云ふ。農業の進むより一般の事に転ず。かりばかの条をみよ。」
としていた。それを前提に,『古語辞典』は,
「仕上げようと予定した仕事の進捗状況がどんなかを,広さ・長さ・重さなどについて見当をつける意」
として,
予測する,
広さ・重さ・値段などを計量する,
よい機会かどうかなど見当をつけてえらぶ,
よいわるいのなどの見当をつけながら,論じる,
もくろむ,企てる,
だます,
と意味の幅を付ける。単なる予測から,価値判断が加わり,それか悪意へシフトすると,だますになっていく,という意味の外延の広がりがよく見える。
「はかる(計る・測る・量る・図る・謀る・議る・度る・料る)」の語源は,
「二説が有力です。
説1は,『ハカ(仕事の進み具合・目あて・あてど)+ル(動詞をつくる接尾語)』が語源という説です。ハカドル・ハカガユク,ハカラフなど,同一の語源か。
説2は,『ハ(張る)+カ(限る)+ル』が語源だという説です。親指と人差し指を一杯に張り拡げて,それを何回繰り返して,限っていくことができるか,というハカルです。
さて,視点を変えて見ますと,日本語のハカルは,意味するところがきわめて広範囲な用法をもっています。物体,人事,重量,体積,深さ,相談,計画などにわたって,すべてハカルを用います。『ああでもない,こうでもないと,適正なものを求める』が,ハカルのすべてに共通する語源ともいえます。そうしてこれらの質的なハカルの違いは,中国語源にたよっています。」
と書く。ひとつの「はかる」だけの意味範囲が広すぎるため,いかに文脈依存でも,意味を「はかり」かねるために,漢字表記の違いに頼らざるを得ないということだ。
漢字の意味の使い分けは,次のように細かい(『字源』)。
計は,物の数をかぞへるなり。総計は,数の総じめなり。心計は,胸算用なり。転じて謀計の意に用ふ。
謀は,心に慮るなり,人と相談してはかるに用ふ。
図(圖)は,はかると訓むときは,料度・計量等の義なり。はかりごとと訓むときは,謀略の義。雄図・壮図の類。
量は,ますなり,転じて分量をつもり見る意。商量・量度・測量などと用ふ。名詞としては,識量・度量・酒量などと用ふ。
度は,ものさしのときは,音ド転じて大度・遠度などと用ふ。またはかると訓むときは,音タク尺度にて,長短を度る如く,心につもり見る意。料度・量度などと用ふ。
称(稱)は,はかりなり,はかりにかけて,軽重を知るやうに,つり合いよくする義。
権(權)は,稱錘(はかりおもり)なり。物の軽重をかけて見るように,さしひき見はからふなり。転じて,権謀・権変等。
測は,水の浅深をはかるなり。転じて,奥底のはかり知られぬ義とす。推測・測量などと用ふ。
料は,升目を数ふる義。転じて,どれ程と,心にはかりつもるに用ふ。
忖は,先方の心を推量するなり。
商は,商量・商略などと用ふ。
算は,さんぎなり。転じて,謀略の義に用ふ。勝算の類。
議は,事の宜しきを評定するなり。
画(畫)は,図に近し。もと線を引きて,此の通りがよからんと,差図する意。
程は,これほどと限量を立つるなり。
詮は,かりに物語をかける如く,品位の高下を精しく品評して分かつをいう。
詢は,はかりとふなり。咨(はかる)と略々同じ。信實にとひ諮る義。
諮は,咨(はかる)と同じ。問ふ也,謀る也。
いくつか漢字の謂れをひろってみると,例えば,
「計」の字は,「言+十(多くを一本に集める)」で,多くの物事や数を一本に集めて考えること,
「測」の字は,則は,「鼎+刀」からなり,食器のそばにナイフをくっつけて置いたさま。側と同系で,そばにくっつける意を含む。そのそばにくっついて離れない基準や法則の意となる。測は「水+音符則」で,物差しや基準をそばにつけて,水の深さをはかること,
「量」の字は,「穀物のしるし+重」で,穀物の重さを天秤ではかることを示す。穀物や砂状のものは,はかりとますのどちらでもはかる。のち,分量の意となる。
「図(圖)」の字は,圖の中には,鄙(ヒ)の字に含まれ,米蔵のある農村の所領を示す。圖は,それと囗(かこい)を合わせた字で,領地を囗印の紙,面のわく内に書き込んだ地図を表し,貯と近く,狭い枠内に押し込めた意を含む。また著や着と同系で,定着させる意を含むから,図形を書きつけて,紙上に定着させる意とも考えられる。
「謀」の字は,某は,楳(=梅)の原字で,もとうめのことであるが,暗くてよく分からない,の意に転用される。謀は,「言+音符某」で,よくわからない先のことをことばで相談すること。
「諮」の字は,「言+音符咨(みんなにはかる」),
「商」の字は,「高い台の形+音符章の略体」で,もと平原の中の明るい高台の聚落をつくり,商と自称した。周に滅ぼされたのち,その一部は工芸品を行商するジプシーと化し,中国に商業が始ったので,商国の人の意から転じて,行商人の意となった。
「議」の字は,義は,「羊(形のよいひつじ)+音符我(かどばったほこ)」でからなる会意兼形声文字で,かどめがついてかっこうがよいこと。議は「言+音符義」で,かどばって折目のある話のこと。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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