2016年11月24日

治る


アンドルー・ワイル『人はなぜ治るのか―現代医学と代替医学にみる治癒と健康のメカニズム』を読む。

人はなぜ治るのか.jpg


同じく,アンドルー・ワイルの『癒す心、治る力―自発的治癒とはなにか 』については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/427491650.html

で触れたことがある。著者は,「日本の読者へ」で,

「私たちに必要なことは,…自分を頼みにする習慣を身につけてもらうことだ。すなわち,何かあってから医者に頼るのではなく,ふだんの食事・運動・呼吸・仕事・ストレスマネジメントに気を配り,それを健全な方法で行うようにすることである。また,起こりやすい病気に対処する,簡単で安価な方法を知ってもらうことである。
 私は読者に生得の自然治癒力を正当に認め,現状に替わる新しい医学の方法を理解し,精神・身体・霊性の相互作用にかんするホリスティック(全体的)な思考を育んでいただくための一助として『人はなぜ治るぱらのか』を書いた。」

と述べている。そして,序文で,

「私は個々の患者に合った食生活・運動・リラクセーションをはじめとするセルフケアの方法を指導する。またもっぱら生薬を患者にすすめている。私の生薬の処方量は製薬会社の薬剤の処方量を大きく上回っている。ハーヴァード大学で医学の前に植物学を修めた私は,いまでも薬草の研究が主要関心事のひとつになっているのだ。セルフケアの指導と生薬の処方が終ったら,最後に患者を他の治療家に差し向ける。その中には現代医学の専門家はもちろん,シャーマン,鍼師,催眠療法家,整骨治療家をはじめ,この本で紹介した治療法のほとんどの実践家が含まれている。したがって,私の治療哲学を一言でいうならば,つぎのようになる。『害にならないかぎり,効くと思われる妥当な方法は何でも使うこと』」

と書き,「奇々怪々諸治療法総覧」として,現代医学(本書ではホメオパシーの創始者ハーネマンが,『その病気とは別のもの』という意味のギリシャ語で,当時の医学を名づけた『アロパシー医学』という表現を使っている)から,にせ医療まで,治療法を列挙し,冷静に是非を論じている。

例えば,こんな具合である。

アロパシー医学(内科。外科)
アロパシー医学(薬物)
アロパシー医学(怠慢の罪)
三大異端医学(オステオパシー,カイロプラクティックス,ナチュロバシー)
東洋医学
シャーマニズム,マインド・キュアー,信仰療法,
心霊療法
ホリスティック医学
クワッカリー(にせ医療)

等々。そして,すべての治療に共通するものとして,六つの結論を挙げている。

①絶対に効かないという治療法はない,
②絶対に効くという治療法もない,
③各治療法は互いにつじつまが合わない,
④草創期の新興治療法ほどよく効く,
⑤信念だけでも治ることがある,
⑥以上の結論を包括する統一変数は治療に対する信仰心である,

と。そして,イボの例を挙げている。

「疣贅(ゆうぜい イボ)は機能的な疾患ではない。ウイルス感染による組織の異常を伴う,実体のある,分離性の,角質増殖の強い器質性の皮疹である。にもかかわらず,ウイルスや異常組織になんら直接的作用のない,イボとり法に対する信念のみによって,事実上,瞬間的治癒に近い治り方をすることが多い。
 効果が著しく予後もきわめていいイボの民間療法に比べると,現代医学による科学的治療法は見るも無残だ。医師がイボをとるときは,メスで切るか,電気メスで焼灼するか,液体窒素で冷凍するか,周囲の皮膚を傷つけないように細心の注意を払いつつ酸で腐食させるかといった方法を使う。これらの方法は粗野で,痛みもあり,余計な傷をつくるばかりではなく,無効例が非常に多い。少なくとも手術例の半分はイボが再発し,かえって増やしてしまう結果になりがちだ。」

として,こう述べる。

「私は,このテーマ以上に研究されてしかるべき医学的現象を,ほかに思いつかない。何ヵ月も何年も存続していたイボが,ジャガイモのかけらでこすって何時間かするとポロリととれる。…決して超自然的なものではない。神経とか血液といった,よく知られているからだの構成物を使った,何らかの分析可能なメカニズムが,背後で必ず働いているはずだ。…それは,きわめて短時間の活動で,強力,正確,かつ効果的に,病変組織の切り捨て(と再発防止)を行うからだ。そのメカニズムを悪性腫瘍や冠動脈をふさぐ栓子,あるいは関節中に蓄積したカルシウムに向けて働かせることができたら! イボとりが広く行なわれているということは,誰もがそのメカニズムをもっているということだといっていい。明らかに,そのメカニズムを作動させるスイッチは,心の中にある。」

それは,プラシーボ効果とつながる。

「イボとりは,プラシーボ反応の一例だ。それはまた,生まれつきからだに備わっている治癒力―それにくらべると外部から施す治療措置が不器用かつ無力にみえるほど効率のいい能力―の存在を明白に証明するものでもある。」

人の心のもつ機能について,

プラシーボ効果,

という言い方を著者はしない。

「これは正しい言葉の使い方とはいえない。好結果はにせ薬の効果ではなく,それを服用した患者の反応である。正しくは,『プラシーボ反応』と呼ばれるべきであり,私もそう呼びたい。」

と。次の言葉が印象深い。

「最良の治療とは医師と患者の双方が心から信頼できる貴重な固有の効果があり,したがって,それがからだに直接作用すると同時に,心が介在するメカニズムによって生来の治癒力が発動されるような,よき活性プラシーボとして機能する治療である。それこそが真の心身医学であり,またいかなる判定基準によってもすぐれた医学であって,決してクワッカリーや詐術ではありえない。事実,真の医術とは,個々の患者に内部からの治癒力を最もうまく生じさせる治療法を選択し,提示する,治療家の能力のことなのだ。」

参考文献;
アンドルー・ワイル『人はなぜ治るのか―現代医学と代替医学にみる治癒と健康のメカニズム』(日本教文社)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
posted by Toshi at 05:32| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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