2016年11月28日

果報


昔,ある映画で,相手が何か良いことがあったことに対して,

「御果報」

とのみ言うセリフがあった,のを鮮明に覚えている。多少の皮肉を込めて,という含意であった。

「そればおめでとう」

というより,

「そいつは,めでたいね」

といったニュアンスであった。

果報は,

因果応報,前世の行いのむくい,
めぐりあわせのよいこと,幸運,

という意味が載る(『広辞苑』)。しかし,『大言海』は,「くわはう」として,

因縁の応報(むくい)。結果。多くは,善きに云ふ,

とのみ載る。上記の,

「御果報」

は,単にピンポイントの幸運ではなく,それをもたらす長い謂れ(因縁)の結果そうなった,という含意が,込められているとすると,なかなか含蓄のある返答ということになる。その意味で,原因をさておいて,結果だけで,

幸運,

という意味に転じるのは,少し陰翳がなさすぎる。『大言海』は,「因縁(いんねん・いんえん)」の項を観よ,成っていて,「因縁」ではこう記す。

「仏教の語。譬へば,穀(もみ)を地に植うれば,稻を生ず。穀は因なり,地は縁なり,稲は果なり。然して,これを行ふことを業(ごふ)と云ふ。因りて,因縁,因果,因業など,人事の成立(なりゆき)は,皆因(ちなみ)あり,縁(よ)る所ありて,果(はて)に至ること,予め定まれりとす。」

じつに簡潔である。

『ブリタニカ国際大百科事典』は,

「仏教用語。異熟とも訳す。以前に行なった行為によって,のちに報いとして受ける結果をいう。人間として生れたことを総報,男女,貧富などの差別を受ける果を別報という。またこの世で行なった行為が,この世で報いとなることを (順) 現報,次の世に結果が現れることを (順) 生報,未来世以後に受けるものを (順) 後報という。」

『日本大百科全書(ニッポニカ)』は,

「仏教の術語。サンスクリット語のビパーカvipkaの訳語で、先に原因となる行為があり、それによって招かれた結果を報いとして得ることをいう。行為は、心に思い、口にいい、身体で行うの3種に分かれ、たとえ身体を動かさなくても行為はあった、と考えられる。この原因と結果とを結ぶものが業(ごう)(カルマンkarman)で、ときに業がその行為・結果・報いのみをさし、また責任などの全体を含む場合もある。仏教では一般に、善因には善果が、あるいは心の満足という楽果が、また悪因には悪果が、あるいは後ろめたい心という苦果が伴う、としている。果報を二分して、すべてに共通な総報と、個々に差別のある別報とをたてる説もある。なお俗には、運のよいことを果報、それを受けた者を果報者とよび、逆に、不幸なことを因果(いんが)、不幸な者を因果者と称することが行われている。」

と,それぞれ記す。『大言海』に尽きる。仏教者は,たとえば,

http://www.tendai.or.jp/houwashuu/kiji.php?nid=53

で,

「仏教で言う『因縁』と深いつながりがあります。あらゆるものが成り立つには、必ずそうあらしめる要因があり、これを因縁と言います。因とは、ものが成立する直接的原因、縁とは、それを育てるさまざまな条件のことです。例えば、花が咲くには、種がなければなりません。それが花の因です。しかし、種があっただけでは、花は咲きません。土や水、光や気候、その他さまざま、花を咲かせるのにふさわしい条件が整った時に咲くのです。因と縁が実ると、それに合った結果が出ます。その結果のことを果報と言います。」

とある。やはり『大言海』の簡単明快で,要点を外さない説明には負ける。

以上のような説明で,結局,「果報」は,幸運,因果が,不運,を指すといううふうに転じたというのがわかる。してみると,

果報は寝て待て,

という諺は,『ことわざ辞典』の,

「幸運は自然とやってくるのを気長に待つべきだ,焦らないで,待てばいつかは必ずやってくる,ということ」

という意味であるはずはない。『広辞苑』の,

「幸運は人力ではどうすることもできないから,焦らないで静かに時機のくるのを待て」

という意味でもない。『大言海』の

「予め定まれりとす」

という意味が重い。『故事ことわざ辞典』

http://kotowaza-allguide.com/ka/kahouwanetemate.html

のいう,

「『果報』とは、仏語で前世での行いの結果として現世で受ける報いのこと。転じて、運に恵まれて幸福なことをいう。
『寝て待て』といっても、怠けていれば良いという意ではなく、人事を尽くした後は気長に良い知らせを待つしかないということ。」

という意味も少し違う。自分の努力だけではどうにもならない,因縁に寄るのだから,じたばたしても仕方がない,つまり,は「寝て待つ」しかない,という含意ではないか。

参考文献;
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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