2016年12月04日
ど
「ど」は,接頭語の「ど」である。「罵り,卑しめる意を表す」(『広辞苑』),
ど阿呆,
といった使い方をする。そのほかに,
どぎつい,
とか
ど真ん中,
といったように,「その程度が強いことを表す」(『広辞苑』)使い方がある。
どん,
は,「ど」を更に強めて,ののしる場合だと,
どん百姓,
などと言い,それを強める場合だと,
どんじり,
どん底,
という言い方をする。「ど」について,『日本語の語源』では,
「イト(甚)はト・ド(甚)に省略されて強調の接頭語になった。ドマンナカ(甚真ん中)・ドテッペン(甚天辺)・ドコンジョウ(甚根性)・ドショウボネ(甚性骨)・ドギモ(甚肝)。ドエライ(甚偉い)・ドデカイ(甚大きい)・ドギツイ(甚強い)・ドツク(甚突く)など。
とくに嘲罵の気持ちを強調するときによく用いられたので,卑しめののしる接頭語になった。名詞に冠せられてドアホ(甚阿呆)・ドギツネ(甚狐)・ドコジキ(甚乞食)・ドシャベリ(甚喋り)・ドタヌキ(甚狸)・ドタフク(甚お多福)・ドタマ(甚頭)・ドチクショウ(甚畜生)・ドテンバ(甚お転婆)・ドヌスット(甚盗人)・ドブキヨウ(甚不器用)…。
形容詞に冠せられてドアツカマシイ(甚厚かましい)・ドイヤシイ(甚卑しい)・ドシブトイ(甚しぶとい)・ドシツコイ(甚執こい)・ドハラグロイ(甚腹黒い)・ドスコイ(甚狡い)・ドギタナイ(甚汚い)。
強調のあまり長母韻を添加することもある。ドーアホウ(甚阿呆)…。」
とある。「イト」の転化である。しかも,「どん」は,ただ「n」を付け加えたものではなく,
「イトモ(甚も)の転トモはドンに転音して強調・嘲罵の接頭語になった。ドンゾコ(甚も底)・ドンボーズ(甚も坊主)…ドンガラ(甚も軀)・ドンケツ(甚も尻)・ドンジリ(甚も尻)…ドンヅマリ(甚も詰まり)。」
と,「イトモ(甚も)」の転化ということになり,謂れが若干違うらしい。因みに,「イト(甚)」は,
「イチ(甚)に転音した。イトモカクルサマ(甚も駆くる様)はイチモクサン(一目散)・イッサン(一散)に転音した。」
とあり,さらに,
「イトシルシ(甚著し)はイチヂルシ(著し)になった。イトハヤシ(甚早し)はイチハヤシ(逸早し)に転音し,さらに『敏速に振る舞う』という意で,イチハヤブル(甚速振る)といったのが,チハヤブル(千早振る)に転音して『神』の枕詞になった。」
とある。「イト(甚)」は,イトシルシ(著し)である。
ついでながら,ののしる意味で,
くそだわけ,
と言ったり,強調する意味で,
くそ度胸,
くそ真面目,
へたくそ,
と言ったりする「くそ」も,似た使い方だが,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%9E
に,
「糞はまた、さまざまな慣用句に用いられる。例えば、現代日本語では、強い憤りやののしり、自分を鼓舞するときに、『くそ』、『くそっ』、『くそう』等と言うことがある。また接頭語・接尾語的に『くそ』を付け、侮蔑や、程度のはなはだしいことを否定的に表現する意図で用いることがある(くそ坊主・くそガキ・くそまじめ・下手くそ、など)。同様の例は、欧米諸語にも見られ、Shit!(英語)、Scheiße!(ドイツ語)、Merde!(フランス語)、¡Mierda!(スペイン語)、Merda!(イタリア語)といったののしりや侮蔑の意を持って「糞」に相当する語を用いる慣用表現が存在している。英語のShit!は下品とされるので、Shoot! やSheesh!など、発音が似た語をかわりに用いることがある。スペイン語でも、女性などはmierda(糞)という単語を直接口にするのを嫌い、最初のほうの発音が同じ単語であるmiércoles(水曜日)をその代わりにいうことがある。」
とある。「くそ(屎・糞)」は,『語源辞典』は,二説の語源説がある,という。
説1は,クサルモノ,クサイモノと同源で,クソとなったとする説。臭い水(石油)をクソウズというのが傍証,
説2は,「ク(含クグモル)+ソ(退く)」で,体内をクグモって排泄するもの,という説,
で,『古語辞典』は,
「臭しと同根」
とし,『大言海』も,
「腐(クサ 臭(クサ))の轉か。ささやく,そそやく。かりさま,かりそめ」
と,「腐」と「臭」を「クサ」と訓ませて,説1の変種を語源としている。『日本語の語源』は,
「形容詞・クサシ(臭し)はいやなにおいがするさまをいう。樟脳や樟脳油を作る樟(くすのき)は臭いにおいがするのでクサキ(臭き)木と呼んだ…。
ちなみに,クサキフン(臭き糞)の語幹のクサはクソ(屎)になった。」
さらに,
「クサキ(臭き)物は,省略形でクサがクソになった。」
とあるので,正確には,「臭い」ではなく,「臭いもの」の省略形ということになる。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
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