2016年12月07日
万引き
「万引き」は窃盗罪にあたり,
10年以下の懲役又は50万円以下の罰金,
に処する犯罪であるにもかかわらず,「万引き」という言葉の響きで,何でもないことのような印象を与える。
万引きは,
「買い物をするふりをして,店頭の商品をかすめとること。またそのひと。」(『広辞苑』)
で,上方語で,
万買い(まんがい),
ともいう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%87%E5%BC%95%E3%81%8D
には,
「江戸時代から使われている語であり、語源の由来としては、
1.商品を間引いて盗む『間引き』が変化して、万引き(万は当て字)になったとする説
2.『間』に『運』の意味もあるためそれぞれを結合し、運を狙って引き抜くという意味で『まんびき』になったとする説
3.タイミング(間)を見計らって盗むことから、
といった説があるが、1の説が有力」
であると,「間引き」説をとっている。
手元の『語源辞典』には,
「語源は『マン(一時的な運・マン)+引き』です。マンよく引き抜く(盗む)ことをいいます。間+引き説は疑問です。」
と,「運」説をとる。『大言海』は,
「間引きの音便」
と,「間引き」説をとる。『語源由来辞典』
http://gogen-allguide.com/ma/manbiki.html
も,
「万引きは商品を間引いて盗むことから、『間引き』が語源で撥音『ん』が入ったという。 万引きの『万』は当て字。 『間』に『運』の意味もあるため、『間』と『運』が結合され、運を 狙って引き抜くという意味で『まんびき』になったとする説や、万引きはタイミングを 見計らい盗むことから、タイミングの『間』からとったという説もある。江戸時代から使われている語なので、どの説も正しく思えるが、商品を間引いて盗む『間引き』の説が有力とされている。」
と,間引き説を取る。『江戸語大辞典』は,
「上方語『万買い』と同源なるべし」
とするのだから,「万引き」の語源は,「万買い」をも説明するものでなくてはならない。しかし,『日本語の語源』は,
「人の見ぬマニヒク(間に引く)は,マンビキ(万引き)になった。また,万引きで商品を入手することをマンガイ(万買い)といった。」
としている。
manihiku→(iの脱落)→manhiku→manhiku→manbiki
といった変化であろうか。『大言海』もこの説を取る,音韻変化には,意味があるし,これなら,
万買い,
も説明がつく。「に(ni)」の「i」脱落について,『日本語の語源』は,
「イカン(如何)・ナンゾ(何ぞ)・ナンデフ(なにといふ)・ナニシニ(何為に)省略され,(中略)ナニセンタメニ(何為む為に)はナニセムニ・ナニシニ(何為に)に省略されて,(中略)ユタニ(寛に)は『ゆったりとしたさま。のどかなさま』をいう副詞である。〈かくばかり恋むものぞと知らませばその夜はユタニあらましものを〉(万葉)。この語がユダンに転音して,客が帰るとき『ごゆっくりなさい』という挨拶の言葉になっている。」
と,音韻変化(iの脱落)の例を示している。
どうやら,「運」説はこじつけであり,『大言海』が,今回も,見識を示したと言えるのではないか。
それにしても,堂々たる盗みを,
万引き,
等々と言い換えて,それが軽いかのように言う風潮はどういうものか。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E4%B8%87%E5%BC%95%E3%81%8D
によれば,
「万引きによる店側の被害は大きい。
製品原価からすると、1つの損失を補填するためには同じ商品を複数個売り上げなければならないし、それにかかる余計な手間やコストは売る側が泣くしか無い。
(例として、大手スーパーだと「100円の商品」を失った被害は「3000円の売り上げ」でようやく取り戻せるものらしい。)」
万引きが「運を引く」などと,ふざけた牽強付会説を流布する輩がいるから,度胸試しやいたずらで万引きを誘引させる。「間を引く」とは,まさに掠め取るという行為を十分説明している。江戸時代だろうと,まっとうな商人が,まっとうな商売をしている商品を「運試し」で掠め取られるのを,洒落などと言っていたはずはないのである。
参考文献;
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
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