2016年12月12日

はぐくむ


「はぐくむ」は,

育む,

とあて,

「『羽包(くく)む』の意」

と注記し,

親鳥がその羽で雛をおおいつつむ,
養い育てる,
なでいつくしむ,

意と,『広辞苑』にはあるが,総じて,他の辞書は,「くくむ」を,「包む」ではなく「含む」をとる。

「『羽(は)含(くく)む』の意」(『大辞林』)
「『羽 (は) 含 (くく) む』の意」(『デジタル大辞泉』)
「ハ(羽)ククミ(含)の意」(『古語辞典』)
「羽含(はふく)むの意か」(『大言海』)

等々。『由来・語源辞典』

http://yain.jp/i/%E8%82%B2%E3%82%80

も,

「語源は『は(羽)』+『くくむ(含む)』で、親鳥がひなを羽で包んで育てるの意であったのが、人間の場合にも用いられるようになり、また、何か物を大切にする意にも用いられるようになったもの。」

とする。確かに,「くくむ」を引くと,『広辞苑』は,

含む,
銜む,

とあて,

口に含む,
つつむ,くるむ

という意味が載る。『古語辞典』は,「くくみ」を,

「フクミの古形か。対象をまるこど本体の一部に取り入れる意。類義語ツツミは物全体を別のものですっぽりおおう意」

とする。しかし,『大言海』は,「くくむ」を,

裹,
包,

とあてる「くくむ」と,

銜,
含,

とあてる「くくむ」と,

哺,

とあてる「くくむ」と,三項別に立てている。

「裹(包)(くく)む」は,

くるむ,つつむ,

という意で,「括(くく)る」と同義で,「括(くく)る」には,

「轉轉(くるくる)を約めて活用せさせたる語か(きらきら,きらら。きりきり,きりり)。括(くく)す,裹(くく)むと云ふも同じかるべし」

とある。

「銜(含)(くく)む」は,

「裹(くく)むと通ず」

とあり,

口の中に持つ,含む,

とある。

「哺(くく)む」

は,

銜(くく)ましむ,口に含めて食わす,

とある。哺育の「哺」であり,「含哺」の「哺」である。つまり「くくむ」には,

包む,
意と,
含む,
意と,
口に含んだ餌を与える,

意とを含んでいるらしいのである。だから,

羽で包む,
意と,
餌を含む,
意と,
その餌を口移しに与える,
意と,

を含み,「はぐくむ」の意味のすべてを含意している。だから,「含む」「包む」のいずれをとっても,「くくむ」の意味の外延に過ぎない。つまり区別は,漢字を輸入して後に付けた,といういつもの例である。その意味では,「育む」も当て字に過ぎない。

手元の『語源辞典』は,

「ハ(羽)+ククム(包む・くるむ)」

とし,『日本語の語源』は,

「親鳥が羽の下に雛を入れて育てることをハククム(羽含む)といったのがハグクム(育む)になった。ククム(含む)は,フクム(含む)を経て,フフム(含む)になり,花がつぼんでいてまだ開かないことをいう。」

とする。「くくむ」の意味の多様性をそのまま反映しているということになる。文脈依存の言語だから,いま・ここで当事者には,「くくむ」が,「含む」なのか,「包む」なのか,「哺む」なのかの区別がついていたということだろう。

因みに,『広辞苑』には,「はぐくむ」の項の次に,

はぐくもる(羽裹もる,育ねる),

という項があり,

「羽に包まれている,養い育てられている」

という意味になる。『広辞苑』と『大言海』は「はぐくもめ」を自動詞とするが,『古語辞典』は,「はぐくみ」の受動形として,

はぐくもり,

を載せる。このほうがしっくりくる気がする。「はぐく」まれている側が,

羽に包まれている,

と感じているとすると,これが原意なのかもしれない。

さて,多様な含意の「くくむ」を,差別化するために使われた,漢字を一応当たってみると,「育」の字は,会意文字で,

「『頭を下にした正常な姿でやすらかに生まれた子+肉』で,生まれた子が肥だちよく,肉がついて太ることをあらわす」

「そだち」と訓ませ,そういう意味をもたせるのは,我が国だけのようである。

「包」の字は,象形文字で,

「からだのできかけた胎児を,子宮膜の中に包んで身ごもるさまを描いたもの。胞(子宮で包んだ胎児)の原字。」

「裹」の字は,

「『衣+音符果(まるい実)』で,まるく,外から布で包む意。」

「裹(か)」は「裏(り)」とは別字であり,「裹蒸(カジョウ ちまき)」「薬裹(ヤクカ)」といった使い方をする。

「含」の字は,

「今は『かぶせるかたち+一印(隠される物)』の会意文字で,中に入れて隠す意を含む。含は『口+音符今』で,口中に入れて隠すこと」

「銜」の字は,

「行+音符金(土の中にふくまれた砂金,ふくむ)」

で,馬の口にくわえさせて手綱をつける金具,「くつわ」「はみ」を意味する。そのため,ふくむ,食む,という意味を持つ。

「哺」の字は,

「『口+音符甫』で,口中にぱくりととらえて,ほおや唇でおさえること。」

親鳥が口中に含んだ餌を子に与える,という意味になる。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
ラベル:はぐくむ
posted by Toshi at 05:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください