ジェフリー・A. コトラー&ジョン カールソン編『まずい面接―マスター・セラピストたちが語る最悪のケース』を読む。
本書の原題は,ずばり,
Bad thrapy
である。著名な,「マスター・セラピスト」が,自分の最悪の失敗を語っている。著者二人を除くと,選択理論のグラッサー,EMDRのシャピロ等々を含めた,
ペギー・パップ,
アーノルド・A・ラザラス,
バイオレット・オークランダー,
リチャード・シュワルツ,
ウイリアム・グラッサー,
スティーブン・ランクトン,
フランシーン・シャピロ,
レイモンド・コルシーニ,
フランク・ピットマン,
サム・グレイディング,
スーザン・M・ジョンソン,
パッド・ラブ,
アーサー・フリーマン,
ジョン・C・ノークロス,
レン・スペリー,
スコット・D・ミラー,
マイケル・F・ホワイト,
リチャード・B・スチュアート,
ミシェル・ワイナー・デイヴィス,
という著名なセラピストである。著者は,
「トップレベルのセラピストが自分の最悪なまちがいについて打ち明ける。あまりの正直さに驚くほどである。」
と書く。
「これまで長い間,セラピストの誤った判断や間違いは,セラピスト自身には関係がないものとするさまざまな解釈方法が生み出されてきた。たとえば,クライアントの努力やモチベーションが足りないということ。また,望ましくない結果の原因を,どうしようもない状況―お節介な家族,器質的または環境的要因,時間の制限など―のせいだとする。さらにクライアントの言動に境界例,妨害,抵抗などといったひどいレッテルを貼る。」
つまり,クライアントがセラピストの機体に応えていない,ということをそう言っている。しかし,と著者は書く。
「今まで助けることのできなかったクライアントのことを思い出しては胸の痛む思いをする経験は,誰にでもあるだろう。特に自分の手落ちのせいでまずい面接となった(願わくば)数少ない症例については思い悩むものだ。手落ちの例はさまざまだ。押しが強すぎた。ペースが速すぎた。状況を読み違えた。重大な情報を聞きもらした。自分のプライベートな問題が浮上してしまった。気転に欠けていた。誤診断した。介入を行う技術が欠けていた。クライアントを追っ払ってしまった。もちろん,この他にも数えきれない程さまざまなタイプの手落ちがあるだろうが,要するに私たちは面接を台無しにして,クライアントは退散してしまったのだ。治療を後退させてしまった可能性もある。こうした状況にあって,しかも誰にも知られないで済むなら,私たちはこうした経験をなかったことのようにふるまうことを選ぶ。否認と自己防衛という非常に便利な手段がこういうときには役に立つ。私たちの間違いを記憶の奥底にしまい,そもそも,そうした経験など無かったことにするような役割を果たすのである。」
寝た子を起こすような,本書に応え,
「オープンに話すにはかなり勇気のいるもので,決して簡単なものではない。だいたい自分のこれまでの臨床経験で出くわした失望を招く最悪な大失敗について進んで話したい人なんているわけがない。」
そこで,
「ただなにかなにか゛うまく行かなかったのかだけではなく,間違いから何が学べるかということに焦点を当てた。結局,何がうまく行かなかったのか納得することで,そこから何かを学んで成長していくものなのだ。この成長過程の鍵となるのは,一連の出来事を体系的に一つ一つ分析して反省し,納得していくことである。こうした作業は,私たちとの面接を通してクライアントが行う取り組みとなんら変わらない。」
インタヴューの対象者は,
「『著名』であること」
だが,その定義を,著者は,
①これまでに相当数の文献を発表していて,それが多くの臨床家に知られていること,
②長年にわたる臨床経験が土台にあること,
③積極的な参加意思があること,
とする当然ながら,著者たちが,
「コンタクトをとったうちの約3分の1の人が辞退したことは,不思議ではない。それよりも,残りの3分の2の人が乗り気で応じてくれたことのほうが驚いた。」
と。著者は,あらかじめ,次の質問項目を送付している。つまり,
①今回のインタビューを迎えるにあたって,どのような考えが浮かびましたか?
②あなたにとって,まずい面接とはどのようなものですか?
③これまでで最悪の面接をきかれて,真っ先に頭に浮かぶのはどのようなものですか? 何が起きたか詳細にお話しください。
④その面接がそれほどひどい結果(あなたとクライアントの一方,または両方にとって)になってしまった原因は何だと思いますか?
⑤その経験をいま振り返って公の場で話すことは,どのような感じがしますか?
⑥あなたの行ったこと,もしくは行わなかったことに対して,後悔したり他の対応をすればよかったと感じる経験は,どのようなものですか?
⑦その経験から学んだことは何ですか?
⑧その出来事そのものと,それに対するあなたの向き合い方から,他の人が学べることはどのようなことですか?
⑨より率直にオープンに自分の最大の失敗について話すことは,一般的にいってどのような望ましい効果があると思いますか?
詳細は,読んでいただくほかはないが,監訳者中村伸一氏は,
「『身につまされる』ことしきり」
と,あとがきで書かれる。ベテランであるほど,深く感じることが多いのではないだろうか。
参考文献;
ジェフリー・A. コトラー&ジョン カールソン編『まずい面接―マスター・セラピストたちが語る最悪のケース』(金剛出版)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
ラベル:失敗した面接 ジェフリー・A. コトラー ジョン カールソン まずい面接―マスター・セラピストたちが語る最悪のケース Bad thrapy マスター・セラピスト ウイリアム・グラッサー フランシーン・シャピロ スコット・D・ミラー
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